「長女の中学卒業」

　長女がもうすぐ、中学を卒業する。まっとうに卒業できそうなのだから、一安心だ。五人の子供の中で、最初に中学を体験し卒業することは、あとの四人に大きな影響を与える。ひな形の役割が、最初の子供にはあるのだ。出来の良い悪いにかかわらず、ひな形に対してどうであるか、残りの四人は比べられることになるだろう。個性を比較してもしょうがないが、生活態度などは引き合いに出すことになる。

　長女は、中学に入って、なぜ吹奏楽部に入部したのだろう？僕も連れ合いの恭さんも、運動したほうがいい、と考えていて運動部に入ることを勧めたと思う。吹奏楽部に入れ、なんてひと言も言っていない。自分の意思で吹奏楽を選んだようだが、楽器については口出しをした。「お金がないから、自分持ちの楽器ではなくて、学校で貸してもらえる楽器にしなさい」と、恭さんが釘を刺した。フルートやトランペットなどは個人持ちで、ホルンやコントラバスなどは学校のものを使う場合が多いようだ。結局、ホルンを選んだ。高校入試のことなんかはるか遠く先のことだと思っていたし、ましてや音楽高校へ進むという選択肢すら頭の中のどこにもなかったことだけは確かだ。

　一年生の夏休み、学校からホルンを持ち帰ったことがあった。「sing sing sing」を演奏するとかで、納屋で少しだけ僕がアドバイスしたことは覚えている。それ以降、ほとんど家でホルンを吹いたことはない。部活動でどこかのホールへ行かなければいけない、という時に、駅まで送り迎えをさせられたことは何度もあるが、ホルンの練習はとんと耳にしたことはなかった。

　それどころか、現代っ子の洗礼を受けているように見えた。髪の毛のくせ毛を直すためにヘアアイロンを使ったり、シャンプーやリンスは自分専用のものを置いたり、僕の中学時代には経験のないことに時間を使っているように思えた。パソコンのメールを覚え、親の携帯電話を使ってメールもする。アイドルタレントに夢中になり、雑誌も買うようになった。学校の勉強にも身が入っていないようだった。ただ、友達には恵まれているようだったから、安心はしていた。

　中学三年になり、まだ進路も決めかねていた頃、吹奏楽部の後輩から、「誕プレのリクエスト」（誕生日プレゼントの略語らしい）を訊かれ、その時に後輩から、「先輩は部活一筋って感じですもんね」と言われたそうだ。家にいる長女は、「部活一筋」という印象は全くない、現代っ子の端に腰かけて居眠りしているような印象だった。長女は長女なりに、わからないながらがんばってホルンを吹いていたのだろう。ホルン専攻で音楽高校へ、という選択肢が、親にも本人にもこの時期になっても存在していなかった。

　そこから、高校受験への過程については、何度も書いてきたので省略する。高校生になれば、街まで毎日通うことになり、それは本人にとって嬉しいことのようだが、音楽専攻という性質上、あまり横道にそれることはないと思う。「地方の現代っ子」には確実に一歩近づくだろうけれど、それこそ一直線にホルンと向き合うことになるだろう。そして、その高校生活が、また下の妹たちに少なからぬ影響を与えていくような気がする。

2012年3月15日　寺田潤史

小松菜畑を中耕

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