「高校の入学式」

　高校の入学式に、初めて出席した。中学や保育園の入学式も出席したことがなく、今までは小学校の入学式にだけ出席していた。爆弾低気圧の通った２日あとの入学式に合わせたかのように、桜は急きょ満開を演じてくれた。近在の小中学校ではなく、連れ合いの実家近くの私立高校まで車で４０分程度の道すがら、桜の満開を早くも垣間見ることができた。やはり、入学式には桜である。季節に追いついたのか、季節が追い付いてくれたのか、それすらもわからなくなるようなこの極端な天候にも、よいところがあるものだ。

　午前中、慌てて出荷を終え、一軒のレストランのレタス類を配達して、入学式に間に合わせた。バスケットボールのコート三面分もあるような大きな体育館に入っていくと、音楽が流れていた。よく見ると、シンセサイザーを生徒が生演奏している。そして、一曲が終わると、今度はブラスバンドの演奏が始まった。シンセサイザーとブラスバンドが交互に演奏して、式典の始まるまでの時間を満たしているのだ。

　３００人を超える、定員一杯の新入生が入場して名前を読み上げる。校長やＰＴＡ会長の挨拶と、職員の紹介、それらは、通常の入学式という印象だ。校長の話した内容には、子供たちを育てる大志が感じられたが、それほど大きく殻を破るようなものではない印象を受けた。ただ、校歌斉唱は何とも独特だった。音楽科の２年生、３年生が校歌を歌ってくれたのだが、ほとんど合唱そのものであった。よく聞くような、ぶっきらぼうな校歌ではなく、かなりソフトに歌った繊細なる合唱なのだ。もちろんハーモニーもある。躍動感を抑えようというような意図があるのか、内省的な合唱で、不思議な校歌を経験した感覚だ。

　生徒が退場して、入学式が終わり、その場で保護者への説明がはじまった。私立の学校の先生たちの言葉を、初めて耳にした。そこでの校長の言葉には強い熱があった。その熱の影響をうけているのか、他の先生の説明にも強い熱を感じた。公立学校の先生方の、一種、枠をはみ出さない言葉とは別次元に聞こえた。学校としての大志があり、それをも常に模索していることを包み隠さずに話し、具体性をもって日常生活を送ることを説明していた。厳しい生活指導は、娘によい刺激になるはずだ。

　その後、音楽科のある校舎へと移動し、音楽科の説明を受けた。そこでは、またがらりと雰囲気が変わった。音楽科の２、３年生が、今度は躍動感のある合唱で１年生を迎えた。２、３年生が退場し、父兄と新入生を合わせて記念撮影した。そこから一気にアットホームな雰囲気へと変わる。非常勤講師も含めた職員の紹介のあとには、専攻実技の先生と各々話す時間も設けられた。

　生徒には、大変なことがたくさん待ち受けているようだが、親としては、厳しく指導してほしい、という願いがあるので、歓迎すべき学校のスタイルだ。全体の生徒数の１割に満たない音楽科の生徒が、この学校の中で醸し出している不思議な世界、それが浮ついた印象を与えないところに、この学校の特色が反映しているのだろう。意思を強く持った学校を卒業すると、強力な意思を貫徹させようとする生徒が育つ、そうであるといいな。

2012年4月6日　寺田潤史

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