「春到来」

　待ちに待った春がやってきた。いや正確には、暖かい春、というべきか。寒い寒い春だった。寒い寒い冬から数えて四か月、首を長くして待っていた春だ。お彼岸が来ても、桜が咲き始めても、冷たい風が吹き止まなかった。爆弾低気圧が来て、桜が満開になって、昨日の大雨をやり過ごして、ようやく本格的な暖かい春がやってきた。

　昨日の雨は、午後三時ごろまでは１０ミリ程度の雨だった。それが、午後３時以降の数時間で６５ミリもの雨が降った。夜には星空になった。今日は２２度を超える最高気温である。そこに、冷たい風の存在はなかった。葉もの類の成長速度が急に上がった。葉もの類の成長こそが、春を待っていた理由である。春の葉もの、それこそがうちの野菜の「売り」の一つである。その春の葉ものが、ほとんど停滞していた。暖かい春が来てこそ、春の葉ものはきらめきを放つ。

　例えば、小松菜。畑の畝に植えられた小松菜は、１０センチメートル間隔で４条に植わっている。１か所に３本の小松菜が植わっている。この寒い春の気温で、小松菜はいっこうに株を大きくしなかった。３本の中から１本の一番大きな株の小松菜を選んで収穫する。それとて、通常の半分の大きさにも満たない。３本の小松菜を２本の小松菜に順にしていきながら収穫を繰り返し、すべての小松菜が２本の株になる。そして、今度はまた１本の小松菜を収穫していきながら、一か所一本の小松菜となる。ひと株が小さいものだから、収穫する本数は多くなるが、重量は軽い。時間ばかりが費やされる理由である。

　通常ならば、この時期、葉もののオンパレードとなり、単価も下がっていく。収穫量が多ければ単価が下がり、収穫が少なければ単価は上がる。農園内市場原理のようなものである。それがこの春は、いつまでたっても葉ものは小さなまま、単価も高いままだった。２月中旬から、ファーマーズマーケットへの出荷も見合わせている。それほどに寒い春だったので、野菜への影響はことのほか大きかった。連れ合いがよくぼやいた。「自家用野菜が何にもない。何の料理をすればいいのか大変なのよ」と。小松菜やホウレン草なんて、いつからうちの食卓に上っていないのか、食べた記憶がない。

　昨日から急に暖かくなって、菜の花も急に伸び出した。あまりに伸びすぎたものは自家用になる。昨日今日と、お昼に菜の花丼を作ってもらった。そのうまいことうまいこと。信じられないほどうまかった。玄米と合うからうまいのか、茹でて炒めるあぶらが上質であるからうまいのか、自家製出し汁とのハーモニーなのか、とにかく僕のからだには極上のおいしさだった。季節を丸ごといただいて、自分のからだの中に透明感を取り込んでいるような…。

　暖かい春の到来は、仕事も一気に片付けていかなくてはいけない合図にもなる。夏野菜の植え付けが急務である。大雨の前に、インゲンやキュウリ、カボチャを植え付けた。モロヘイヤやエンツァイ、バジル、枝豆も畑デビューを待っている。育ちの遅かったトマトやナス、ピーマンなども鉢上げしなければいけない。葉もの類のほかに、マクワウリや冬瓜、ニガウリ、オクラの種播きもしなければいけない。寒さで遅れた仕事は山積みだ。

2012年4月12日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る