「遥かなる有機野菜の縁　その２」

　二週前に、同級生の赤田(仮称)さんとの野菜を通じての再会のことを書いた。この赤田さんのお宅に、野菜を配達することになった。家のある場所を聞くと、どうも昔から配達している青田(仮称)さんのお宅の近くのようである。前回の配達時、青田さんのお宅に配達に行った時、赤田さんのことを尋ねた。すると、青田さんのお母さんが言う。「すぐそこですよ、あるいてすぐ。うちの息子と赤田さんのご主人は、それこそ懇意にしていただいているんですよ」と。同じ町内会で親しいらしい。年齢も近いし、会社も同じだという。世の中、広いようで狭いのだ。

　青田さんのお宅に配達をし始めたのは、２０年近く前のことになる。うろ覚えだが、確か当時野菜を買われていた黄田(仮称)さんの息子さんと同じ幼稚園に通う青田さんの娘さん、親御さん同士の話から、うちの畑に来られたのではなかったか？当時、まだ青田さんは、今住んでいるお宅からほど近いアパートに住んでいた。そちらへ、しばらく配達していた。のちに、二世代住宅を建てられて、配達先も今のお宅へと変わったのだと思う。

　青田さんの娘さんが、最初にうちの畑に来た頃は、五歳か六歳である。今は、もう２４、２５歳くらいだと思う。実家を離れ、遠くの街で幼稚園の先生をしている。高校では、吹奏楽部に入り、トロンボーンを吹いていた。うちの畑で採れた野菜を、高校卒業まで食べたことになる。大学に入って家を離れても、配達に行くたびごとに、娘さんの話をしていたように思う。小さなころから知っている、ということはそういうことなのだ。

　青田さんのご主人は、二つ年が上で、高校も同じである。同じサッカー部だったという。でも、お互い面識はなく、記憶にも残っていない。僕はサッカー部と言っても、一年生の途中でリタイアしていたし、三年生の青田さんは、七月ごろには受験でサッカーを終えている。興味深いのは、この週刊てーてに矢追日聖さんのことを書いた時のことだ。もうかなり前の話である。矢追日聖さんのことを書いた時には、奈良の大倭紫陽花邑（おおやまとあじさいむら）のことを必ず書く。そこを形作ったのが矢追日聖さんだからである。青田さんは、この時の週刊てーてを呼んで、次の配達の時に僕に言った。「大倭紫陽花邑のことが書いてありましたね。びっくりしました。仕事でこの前、ここの老人ホームに行ったばかりなんですよ」と。

　青田さん宅に配達に行く夜、玄関口に出てくるのは、奥様かお母様のどちらかであることが多い。ご主人は、大抵残業でいらっしゃらないことが多いのだ。たまにお会いして話した時に、先のような話をされると、やっぱり何か縁があるのだな、と感じる。そこへ、今回の赤田さんの話である。考えてみれば、青田さんのお宅に配達を続けているのであるから、１５年以上も赤田さんのお宅の前をそのたびごとに通っていたことになる。ただ、僕は、赤田さんが日本にいることすら知らなかった。同級生の誰かに、結婚して外国にいるようなことを聞いたことがあったからである。ファーマーズマーケットで僕の顔写真入りのシールの付いた野菜を買い、同級生であることを思い出してくれたのだろう。同級生であることの信頼感に、青田さんと赤田さんのご主人同士の信頼感が加わり、不思議な縁が後押ししてくれている。

2012年5月10日　寺田潤史

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