「草と野菜」

　週刊てーてという題名で、この通信物を書きはじめて２０年近くになる。実は、その前の１年程はグラスベジタブルという名前をつけていた。草と野菜という意味だ。そして今も、草とともに野菜があることに変わりはない。それは、奈良の川口由一さんの自然農とは違う。普通に畑を耕しもするし、畑を耕さない不耕起栽培もする。草を取りたい時には取るし、草をそのままにする時にはそのままでもある。そこに定義はない。だけど、草はとても重要だと考えるやり方だ。

　１０日前の台風４号による塩害の被害は相当なものだったが、ところどころに被害のない部分、あるいは被害の少ない部分があった。野菜の畝の東側を草を生えるにまかせていたところでは、草に遮られて野菜は守られたのである。胡瓜は、台風後もそのまま収穫できているが、それは地を這う昔ながらの地這胡瓜であることが功を奏した。そのことに加えて、東側に南瓜、されにそのまた東側が草に覆われていたことが幸いした。

　地這胡瓜は、そのひなびた味が好きで毎年作付けているのだが、仕立ても楽で、台風にも比較的強いと言える。収穫だけは、腰をかがめないと収穫できないので、腰を痛めやすいという欠点はある。地這とはいえ、畑がきれいに草取りをされていたら、台風にやられただろう。南瓜という地這性の葉の大きな野菜との共生。そして草。これらが強力な味方をしてくれたのだった。

　畑は草をきれいに取って美しく、これが普通に考えられる畑の姿であろう。これは、人間の考えた美しさである。同じ作物が規則正しく植わっている方が整然として綺麗に見える、雑草が何種類もあちこちに生えているのは美しくない、こういった既成概念のようなものを、近年は映像でも人々の目の中に焼き付けている。観光農園のような場所を好む方も多いが、そういう場所は大抵きれいな農園風景も売りにしているだろう。でも、うちは観光農園ではないし、農薬や化学肥料も使わない、虫も草もいっぱいの農園である。見た目の美しさよりも、野菜そのものの力を信じて寄り添う農園である。ましてや、海岸近くの突風の吹きやすい場所でもあるし、台風で潮風が必ずやってくるような場所でもある。野菜を庇護する方法も考えなければいけない。

　草と一口にいっても、草には多種多様な種類があることは誰もが知っていると思う。草は、その土に必要なものが生えてくる。土に合わない草は育たない、と言っていい。たとえ芽を出したとしても、草と草が競合して、そのまま育つにはその土に合ったものだけが残る。土に合わなければ淘汰されるのだ。土が変われば、草も変わる。大地を覆う草の植生というものは、人智の及ばない宝の山かもしれない。だから、草を抜く時などにはいつも思う。おまえは必要だから生えてきたのだろうが、人間の都合でちょっと抜かせてもらうよ、と。間違っても目の敵にはしない。

　人間は、自分のからだのことを考えて、食材のバランスを考える。土も、土のバランスのことを考える、と言いたいところだが、考えてくれるのは草たちである。草は土に生えるから、土と密接な関係があることは間違いない。この土には、おいらの茎の成分が必要だよ、と力強く、他の草を押しのけて育っているかのようである。自分のことを考えるということは、他者（土）のことも考えることであるかのように、草たちは存在する。

2012年6月28日　寺田潤史

鬱蒼とした｢ちーち畑｣のトマトは大丈夫だった

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