「虫と対峙する」

　毎日、ナスの葉や実を食害するニジュウヤホシテントウの幼虫をつぶしている。成虫もたまに見つけてつぶす。卵を見つければ、孵化する前につぶす。容赦なく虫を殺している。目的のナスの収穫が皆無になっては困るからである。毎年７月、恒例の仕事だ。 　

　ナスの樹にいる虫は、ニジュウヤホシテントウだけではないが、被害をもたらすのはほかにカメムシくらいである。ほかの虫はそのまま放置する。農薬を使うと、きっとすべての虫も死んでしまうのかな？農薬を使ったことがないのでわからないが、葉や実に農薬のかかったものは触りたくはないし、売りたくもないな。農薬は、虫も微生物も皆殺しにする可能性と、葉や実にも付着する可能性があるんだなと理解できる。これを体験して理解するつもりはないし、虫の飛来のないナス工場にも興味はない。露地というものは、多様な世界である。

　台風で、壊滅的にナスの葉は被害をこうむり、葉はほとんど黒くなってなくなった。そこから再生し、新芽が吹き出して、葉を伸ばし、茎を伸ばして、ようやくたわわに葉が茂るようになった。回復を優先するあまり、剪定はほとんどしなかった。おかげで葉は多く、ナスの樹の下方の葉に産み付けられたニジュウヤホシテントウのオレンジ色の卵を見つける確率が低い。卵からすぐに孵るから、茂った葉の一枚一枚にはびこる幼虫たちを、すべての葉をめくって見つけてつぶさなければいけない。そして、また毎日のように卵から幼虫は孵って広がるのである。

　何千枚何万枚の葉をひっ繰り返すのだが、実際には、一つのナスの樹に食害された痕跡がなければ、まだ幼虫の広がりはないのである。毎日確認しているところだが、折から、この猛暑である。猛暑であっても、幼虫一匹見つければ、ほかにも広がっているはずなので、ナス畑に膝をついている時間は長くなり、あっという間に日が暮れる。いつのまにか体力も消耗している。

　台風の被害をあまり受けなかったトマトの樹。そのまま、トマトの畝の横は草を生い茂らせたままである。トマトの畝に行く前には、長袖のツナギ服に着替え、収穫用のバケツを持つ右手には、手袋をはめ、顔は養蜂家がかぶるようなネット付きの帽子で防御する。素肌を露出しているのは、収穫する左の掌だけ。蚊の大群から身を守るためだ。

　赤みを帯びたミニトマトを収穫していく。カメムシに吸われた実はそのまま畑に戻す。収穫しはじめの頃は、ほとんどカメムシにやられた。ここへきてようやく収穫するトマトが多くなったので、カメムシにやられないトマトの確率も高くなってきた。何十匹、何百匹の蚊の大群に襲われる。でも、赤みを帯びたトマトだけを見ているから、蚊は目にほとんど入らない。だから、蚊を叩き潰す必要もない。音楽を聴きながらの収穫であれば、蚊のブーンという音も聞こえない。

　僕は蚊をつぶすためにこの鬱蒼としたトマト畑に来たのではない。目的は、手間をかけて育てたミニトマトである。蚊の一匹一匹を気にし出すと、すべて叩き殺したくなってしまう。しかし、蚊はトマトに害を及ぼすものではない。蚊を殺すことと蚊を殺さないこと、どちらも選択できていい。正しいのは、蚊が存在し、自分も存在することである。一面からの見方は、農薬と同じで、皆殺し的見方となってしまう。本来は多様な世界でしょ？

2012年7月26日　寺田潤史

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