「人間の尊厳　その２」

　先週の週刊てーては、人間の尊厳なんていう大げさなタイトルの割には、具体的な種播きのことや三女のことを書いた。尊厳という言葉を辞書で引いてみると、「とうとくおごそかなこと。気高く犯しがたいこと。また、そのさま。」と出てくる。そのことは、人間の死とか生とかを連想するが、たとえば死などは皆が犯そうとしている。つまり、死というものに直面すると生きよう、あるいは生きさせよう、とするのだ。それが犯すことである。そう考えると、死と尊厳という言葉は、矛盾する言葉であるような気がする。 　

　子供の素直な心、大人でも子供のような素直な心が出るときがある、そのような時にこそ、尊厳というものが存在するように感じるのだ。そのような心が出現する時に、邪悪なことは考えない。もっといえば、守りに入ろうとしないのだ。三女が種播きの細かな作業に興味を示したように、そこに下心など存在せず、ただ単に自分の心のままに目を輝かすのだ。

　たとえば、うちの連れ合いの恭さん。昼間は、ひたすらラジオを聞きながら収穫をしている。収穫が主のようでもあるが、ラジオの時間に合わせて収穫をしている。どの畑に行くにも、雨が降ろうとカンカン照りであろうと、ラジオをそばから離さない。そのような時に、僕は尊厳というものを感じたことがない。なぜか、などとも考えたことがない…。でも、布を裁断してミシンに向かう恭さんには、尊厳を感じる。何故だろう？考えたことはない。

　たとえば。オクラを収穫する時には、大雑把に言って二通りのやり方がある。時間がない時に大慌てで収穫だけする時と、じっくり収穫をする時。時間がない時でも、カメムシやイモムシを見つけたなら、迷わずにつぶす。だが、葉が古くなって、側枝から出た新芽を日陰にする葉を欠く作業は、時間がなければ省く。じっくり収穫する時には、次の未来の成長を考えながらの収穫になるのだ。これは、自分の作業であるから、尊厳ということが自分にあてはまらないで、オクラという生命に当てはまる。オクラの成長する、お陽さまに向かって伸びる性質は、尊厳に値する。そういった姿を見つめることも、仕事である。お金に直結するような仕事ではないが、目に見えない形で、野菜を買ってくれる方々に通じる仕事の一つだとは思っている。

　オクラを収穫する時に、この時期、もうひとつ大事な仕事がある。オクラは、軍手をはめて長袖シャツを着て収穫する。腕などの弱い部分が痒くなる可能性があるのだ。加えて、軍手には、オクラの実をぬぐう仕事が科せられる。この秋の深まりそうな時期には、虫たちも子孫を残そうとして、最後の力を振り絞る。そのために虫は生きているようなものだ。

　オクラの実を、イモムシが食害する。生まれて間もないイモムシが、オクラの実についていると見落とすことがある。その虫は、収穫後もそのままオクラを食害する。だから、収穫する度にオクラの実全体を軍手で拭う。そのことで、小さな虫まで除去することができる。さらに、この時期には、オクラの実自身に小さなとげが出てくるものがある。食べる時にとげが残っていると、ちくちくして食感に支障が出る。軍手で拭うと、とげも大方除去できるのである。イモムシの尊厳は軽くつぶしてしまうところが、何とも人間の勝手だけど。

2012年9月20日　寺田潤史

オクラの葉の上のイモムシ

虫の卵が産み付けられている

かえるくんが虫を狙って待っている

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