「自然界と人間界　その３」

　二十四節気の小雪（しょうせつ）に入り、雨が降っている。未明から降って、十数ミリの雨。もうすぐ雨は止むだろう。先日の雨は三十数ミリの雨で、前後には風も吹き荒れた。晩秋とはいえ、もう気分は冬で、雨のあとには大風が吹いて大地を乾かす、ここ遠州の空っ風は強い。

　雨風に耐えることを強いられて、農の者は強くなる。今は懐かしい真夏の日差しだが、あの日差しは耐えるものではなく、切り抜けるものだ。冬には霜を踏んでの作業に、手足の指先は凍える。四季の顕著なこの国の、それぞれの耐え方は、そこそこに人を強くし、楽天的に生きるほかはないことも叩きこまれる。そういう意味で、四季は素晴らしい性質だと思うし、さらに２４の節気に分けて、その時節を生活の中に入れていく国民性はなんと細やかなものであると、今更ながらに思う。

　人の強さは、季節に鍛えられるのだと思う。そういうことからすると、僕もだいぶ強くなった、と自画自賛する。２９才で帰農したことの大きな理由の一つに、強い人間になりたいと思ったことがある。それは、屈強なカラダを持つ人間になるということではない。東京にいる時に、夜勤をしながら音楽精進の日々を送っていたわけだが、どうにも自分の中で自分のひ弱さがいやだった。それは、カラダがやせている、というひ弱さではなくて、土にまみれていないひ弱さというのかな？そのひ弱さでギターを弾いても説得力がない、という感覚に襲われていたのだ。

　実際に帰農してみて、もう丸２３年経って、体重は２０代とほとんど変わらない。しかし、季節を切り抜けてきた実感はある。たった２３年だけど。一年に一度しか、その時節を味わえないのは誰もが同じだ。それまでの東京時代の１０年あまりで、時節をからだとして感じていたか？というと、やはり実感がない。季節に鍛えられたことが、僕の最大の財産かもしれない、と思うようになってきた。もっとも、それは、大昔からの人間の培ってきた財産でもあるわけで、なくてはならない必須アミノ酸のように、僕はそれを欲しがっていたのかもしれない。

　人の強さは、しかし、人間関係の中においては、また違う側面の性質を持つ。人と人との間では、僕はとても弱い、と思う。子供たちに、自分の好きな事を徹底的にやりなさい、ということを言い続けていると、子供たちは子供たちなりに、自分に正直にやるわけだが、当然、それを言い続けサポートする僕も、自分に正直でなければいけないことになる。そして、自分に正直になるけれど、生活もまた成り立たせなければいけないのは当然で、どこかで生活優先が大前提になってくると、知らず知らずのうちに我慢することが当たり前になってくる。誰もが直面していることと変わりはないのかもしれないが、多くの人は生活をもっと優先にしているのだろう。

　野菜においては、農薬や化学肥料を使わないやり方、この頃で言えば、堆肥すら地中深くには施さずに土の上に置くやり方を続けている。これは、僕の選んだ正直な気持ちが野菜に伝わるように、との思いからだ。野菜だって、太った野菜になりたい、と思っているかどうかはわからないのだ（考えはないかもしれないけれど）。草と共存するうちに野菜自身も強くなっているのかどうなのか？これは、僕の想像上のことなのだろうか？

2012年11月23日　寺田潤史

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