「自然界と人間界　その４」

　自然界は強い。これは間違いのないことだ。自然界にあるもの、たとえば「山」。山は、台風や豪雨によって崩れることがある。しかし、壊れた状態の山もまた、自然そのものである。崩れた山に、そのまま草や木が生えてくる。再生するのだ。木や草には、寿命があるかもしれないが、山そのものには寿命がないのだ。草や木が生えて、虫や動物を呼ぶ。それが自然界そのものである。だから、強いも弱いもないのであるが、自然界にひれ伏す側の人間や生命たちにとっては、常に怖い存在で、強い存在であるのだ。

　子供が、先日僕に訊いた。「天皇陛下って偉い人でしょ」と。いや、別にえらくもないよ、普通の人だよ、今は、と答えた。総理大臣だって別に偉い人でもない。偉い人がころころ一年ごとに代わるって、おかしな話だもの。ただ、日本人は、特に、権威に弱い。何とか賞という、表彰ものにも弱い国民性なのである。賞をとったその日から、その人に対する評価ががらりと変わるのは、自分に価値基準がないからだろう。もういい加減に、自分で価値の基準を決めてもいいと思うのだけど。権威というものは、そこにある種の職業の階層を生む。その人たちにとって、使える人は偉い人でなければならないわけだ。

　話がそれたように思うかもしれないが、それが人間界というものである。でも、僕はどうも、自分の価値基準でものを見るので、僕が良いと思うことと、世の中のシステムとは、とても乖離しているように感じる。乖離しているということは、本当は良いことだと思うのだけど、乖離している人は変な人、決定的には仲間はずれの存在である。確かに、日本人は仲間はずれを差別することで、自分の優位性を保とうとしてきた国民性も持っている。人間は平等である、人の上にも下にも人を作らない、そのような時代になって、そのはけ口をどこに向けたのだろうか？

　自然破壊は、人間の専売特許だ。原子力発電はその最たるもののひとつであることを、まだ権威を持っている人たちやその周辺で仕事をする人が気付いていないのか、認めたくないのか？子供がいじめをする背景には、親のストレスが関与していないだろうか？それは、世の中のシステムが、あまりに自然界とかけ離れたことによるしわ寄せではないだろうか？これは、社会全体の巧妙な仕組みの産物の、病んだ状態の結果である、ということが言えるかもしれない。

　自然界は強い、そのことを意識して、人は生活をしなければいけない。そこには恐れがあるのだ。犯してはいけないこと、を人は犯し続けている。農に携わるものや、漁に携わるもの、自然界を相手に仕事をするものは、そういう意味で、とても大きな役割があると思う。科学だって、自然界から大いなるものを提供してもらっているのだ。

2012年11月29日　寺田潤史

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