「２０１２年の総括　その二」

　両の手の親指の先、爪のすぐ隣の内側が切れた。あかぎれである。この冬も、そういう季節になったということだ。ちょっと切れただけで、何をするにも痛い。絆創膏を貼って、ようやく気が収まる。良く考えてみれば、極端な天候であっても、大雑把に言って冬に冬らしくあれば、それでいい、とも言うことができるかもしれない。夏が長く、秋が短く、冬は長く、春は短い、というようなものであっても、四季を感じることができるうちは安泰なのだろう。

　夕方、子供たちが続々と家に帰ってくる。だいたい宅急便の出荷を終える午後４時半を過ぎて、台所に外から目をやると電気がついている。三女がホットケーキを焼いているのだ。この浪費家の三女は、お金があればすぐにお気に入りの服に化けるか、お菓子を買って食べるか、使ってしまうのだが、今年のクリスマスには、￥１００ショップのフライパンとフライ返し、それにホットケーキミックスを５袋、あるいは座イス、が欲しいと言い出した。まったく奇妙な子供たちの一人そのものである。

　長男が来年小学校入学の年で幼くても、総じて子供たちは大きくなった。長女が今年高校へ入学して、子供たちのドタバタも板についてきたようだ。長女がホルン奏者への道を、次女が漫画家への道を明確にした年でもある。数年前に、誰がこういった進路を予測できたであろうか？だが、しかし、親は子供のやりたいことに手を貸すが、親も一人一人の人間である。子供を応援することと、自分を放棄することとは違う。また、子は子で、親がどんなに偏屈であろうとも、立派に別の偏屈さを獲得している、そういうもののようだということを知った年でもある。

　長女が高校へ入学して、特に面白いと思ったことは、長女の担当のホルンの先生が、遠巻きに長女の独立性を欲している、と感じたことだ。これは、直接言われたことではないが、親の影響力をきっと学校生活の中で垣間見るのであろう。家の事情と、親の影響力は、別物であることも、先生は知っているようだ。つまり、例えばホルンという楽器であれ、それを社会的なことも含めて伸ばしていくには、個人の精神的な自立が必要であることを、ホルンの先生は理解している、と想像できるのだ。

　日常生活の中に、親が子供のサポートをする必要性は少なからず存在する。だからと言って、親に縛られていたのでは、子供は伸びない。子供の心が閉じてしまうことは、親が特に注意を要することなのだろう。そこのところのさじ加減は、常に緊張感があって、親は文字通り対峙しなければいけない。対峙することは、支配下に置くこととは違って、タイマンを張るようなことでもあるのだ。どのような種類の人であっても同じかもしれない。敬意を払っても、対等でいることが健全だが、現実はそう簡単ではない。

　四季を感じるように、親子も感じることができればいいと思う。どんな家庭に育っても、親は親である。しかし、子供は、案外冷酷に観察している。自分の親と友達の親との違いを、現実として受け止めている。違いがあるからよい、ということを、四季を感じるように少しずつ体得していってほしいと思う。その上で、素直であればなおいい。

2012年12月13日　寺田潤史

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