「２０１２年の総括　その四」

　最後の最後まで、畑仕事をしている。本当であれば、正月休みもいらないくらいの気分だ。そのくらいに、今年の畑は低調だった。何度も書くけれど、台風半年に一度の３連発は、とんでもなく打撃であった。でも、津波の被害に遭われた方々からすれば、大したことはないかもしれない。家もあるし、畑も使えるのだから。

　僕は、なぜ海辺で有機農業をしているのだろう？帰農したばかりのことを思い出せば、帰農を決意する直前には、山奥に土地を借りて農業をしよう、との考えもあった。しかし、親父が土地に執着し、土地に生きる人間だったので、土地があるならばそこでやってみなければ、山奥の人たちに失礼だ、と考えたのだ。そして、帰農して丸一年、機械を使わないで開墾したが、親父とあまりうまくいかなくて、一度は、再度上京して就職の面接を受けたこともある。元働いていたところからも、もう一度うちに来ないか？と口説かれたこともあった。

　結局、親父とは別に住む場所を変えて、今の元の本家に移り住んで、頑固な祖母の面倒を見ながら農業を続けることにした。それからは親父ともうまくやれるようになっていったので、ほんの少しでも離れていたほうがよい、という環境も確かに存在するなぁ、と感じたものだ。親父が他界した前後になって、親父の気持ちを少し理解できたようなところもある。

　一方で、僕が帰農した時に周囲の人は、東京での音楽に夢破れて田舎に戻った、と思う人が大半であったと思う。音楽なんかやっていてこれからどうするんだ？という時に、農業という方法があったのか！と語った友人は、それからずっと毎週野菜を買い続けてくれている。すごい人である。だが、１５歳から音楽をはじめた僕は（オルガンとピアノは保育園時代にやっていた）、思考回路が音楽でできているようなものだった。音楽で食っていくためには東京にいることがよかったが、その時の僕が音楽をやり続けるためには東京ではだめだったのである。土や生命に触っている必要を感じたのだ。

　あの時には、いろいろあれこれ考えたり、動機付けがや説明が必要だったと思う。今あらためて、音楽は、後天的な僕そのものであり、農は先天的な血である、と感じる。通常、人が人を評価する時には、専門は何であるとか、仕事は？とか、いくら稼いでいるとか、何とか賞をとった、などとして評価することが多い。しかし、自分が自分を評価する時には、それらのことはあまり関係がない。それらのことは、それこそ逆説的だが、自己満足でしかないのだ。

　自分はどこから来て、なぜ自分はその場所にいて、何を食らい、何をし、どうしていきたいか？それを自分に問うことが、自分を評価することである。僕は、相変わらずに音楽でできているし、畑に生命の溢れることに安堵している。木を切って薪ストーブに火を入れることに、大きな仕事を感じる。それらが、人に伝わることを祈っている。祈るだけでは伝わらないことのほうが多い。それらは、一文も稼がないかもしれない。子供を子供自身が好きな道に進ませたいならば、僕自身の姿を見せる必要がある。いつか子供が大人になって、僕がどうしてこのような生活をしているのか、感じてくれたらいいだろうな、と思う年の瀬だ。

2012年12月27日　寺田潤史

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