「２０１３年に向けて」

　穏やかな年明けだった。最後の最後まで粘った暮れの仕事も、明けてみればもう去年のことである。人間の世界は、おめでたい世界一色のようだ。静まり返った正月二日、去年間に合わなかった納屋周辺の片付けに追われた。高校の同級生との新年会直前、その静まり返った青空に、電気ノコギリの薪を切る音が響き渡る。周辺の家々に申し訳ないな、と思いながらも、けたたましい音を十数分響かせた。

　毎年のように思い出すことがあり、毎年のようにこの週刊てーてにも書いていることがある。住井すゑさんの「橋のない川」で、安養寺の「ぼん」に言わしめた言葉。詳しくは覚えていないけれど、「人間世界は年が明けたとしても、何も変わったことはない。ただ時が刻まれただけで、差別なら差別はそのまま残っている」というような言葉。そのように思っていても、おめでとうと言葉を交わして挨拶するのが日本人であるし、ある意味では、人は演技して生活しているようなところもあるのだろう。儀礼とはそういうものか。演技とは、縁起のようなものかもしれぬ。

　野菜には、演技も縁起もない。彼らは、野菜の野菜たる姿を、全力で表現する。これが売れる野菜の姿だ、とは示さない。だから、野菜が野菜の売れ行きを気にする必要はないのである。野菜にとって、もたらされる人間の用意した環境と自然界の環境、それに対応して生きていく姿を具現化するのが生を全うすることになる。人間の用意した環境が、人工的であればある程に自然界の環境から離れていく、という性質がある。人間に都合のよい野菜が売れる野菜であるから、そういう世界を目指せ、というのが人間界の大勢だ。うちの野菜たちは、そういう世界の外にいる。その野菜たちを、そのまま継承していく年になるだろう。

　先の衆議院選挙もまた、演技に終始した。その結果、大勝した自民党の安部さんは、原子力発電を新たに作ることもありうる、と発言している。人の心を経済優先が抑えつけた結果であろう。その瞬間の民意が、国を暴走させることは、過去にもあったでしょ？そういう意味でも、政治の行方には注視する必要のある年だ。

　正月に、娘たちとちょっとした会話をした。電気がなくなったら、どうする？「電気がなくてもホルンは吹けるよ」と長女が言うと、「漫画はアナログで書くしかないね」と次女が言う。「ギターもエレキはダメだけどアコースティックならいいね」。そう、電気がなくなることは実際にはないだろうけれど、電気がなくてもできる技量を身につける必要は大いにあると思う。電気ノコギリが使えなかったら、普通のノコギリを使えばいい。電気だけに頼って、売れるものだけを作っていたら、この時代のものは何も残らなくなってしまう。野菜工場なんていうのも同じだろう。自分の歩く道は、バーチャルな道ではなく、地に足のついた大地の道でありたい。

　いろいろ考えてみたところで、やはり、昨日までやってきたことに、また積み重ねていくだけしか、やっぱりできそうもない。その積み重ねることにも、新しいエネルギーは常に必要だ。そのためにも、自分に正直に生きたいと思う。ヨロヨロと右往左往しながらも、這いつくばって、何とか２０１３年を粘り抜きたいと思う。

2013年1月3日　寺田潤史

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