「東京　その３」

　長女のコンクールに付き添って、東京へ行ってきた。ブログに「その１」と「その２」を書いた続きを週刊てーてとして書くので、ブログを読んでいない人は、いきなり「その３」となるのでお許しを。

　今回、長女のホルンコンクールの目的に合わせて、子供たちの東京見物ができたことはラッキーだった。冬休み最後の日曜日だが、予報では雪が降ることを伝えていたので、車で行くことができなければ子供たちは連れていかないはずだった。直前に雪の予報がなくなったのがラッキーだったのだ。連れ合いは、洋裁が趣味なので、日暮里の布屋さんに行きたかったのだが、インターネットで調べてみると、布屋さんのほとんどが業務用途で日曜日はお店が休み、ということがわかった。それで、下三人の子供と上野動物園一本にしたのだったが、それは正解だったようだ。

　そして、今回、東京に毎週野菜を送っている方が、ホルンコンクールを見に来てくださった。８０歳の女性であるけれど、初めてお会いして、８０歳とは思えないほどに若々しかったので驚いた。ホルンコンクールの会場に僕が入って、見渡したところ、おばあさんらしき人はどこにも見当たらなかった。今日は来られそうもないのかな？と思っていた。そうしたら、休憩中に僕たちを見つけてくれて、会うことができてその若さに驚いたのである。こんなに若々しくては、会場でおばあさんを探したって見つかりっこない！

　お会いして、僕は本当に恵まれていると、あらためて感じた。よいお客さんとは、よい人なのである。メールでやり取りはしているのだけれど、子供全員の名前まで覚えてくれていた。あの方からすれば、僕なんぞはまだまだひよっ子であるのに、いろいろとお気遣いしてくれているのがよくわかった。あの東京でよい人でいられる凄さは、僕には真似できない。

　東京に行くことは、複合的に意味がある。すでに、僕は土のあるところ、草や樹木、あるいは野菜のあるところにしか生活できないからだになっているようなものだ。しかし、僕たちの野菜は、頻繁に東京方面へも運ばれている。そこに野菜を買ってくれる人がいるからである。縁のある人がいるのだ。どんなに大都会であっても、それら縁のある方々と、点と点で結ばれている。会うことのできない人もいる。いや、会うことのできない人が圧倒的だ。

　土のあるところにしか生きられないようになった僕が、野菜を通じて、土を運んでいるのかもしれない。野菜の泥が洗われていたとしても、土からできた野菜である。人には土が必要なのかもしれない。思い返してみれば、東京で音楽を志していた僕が、音楽を作るには土に触る必要があると感じて帰農したのだが、今考えてみれば、僕は生きるために土が必要だったのかもしれない。僕が生きるために、音楽を必要とするように…。そしてまた、土も音楽も、すべて人とつながっている。人も土も音楽も、僕の中では同じように空気を吸っているのだ。

　東京から戻って、翌朝畑に出た。ひんやりとした空気が僕を洗ってくれているようだ。東京の空気を汚れているとは感じなかった。畑には、精霊のようなものがいるのかな？美しい景観とはほど遠い畑であるが、身を清められるような何かが潜んでいる。

2013年1月10日　寺田潤史

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