「大寒過ぎて」

　先週は寒かった。これぞ大寒というくらいに、痛いくらいに冷たい空っ風に打たれては、納屋の薪ストーブに手をかざし、足をかざしに戻った。薪ストーブの遠赤外線効果は絶大である。どんなに寒い日も、薪ストーブで温まれば、また畑に出て行くことができるのである。とはいえ、あまりの寒さに、収穫するだけがやっとの日もあった。

　数年前までは、１月はゆっくり過ごすことが多かった。作業らしい作業もなく、トラクターのオイル交換をしたり、種の注文をしたりするくらいで、収穫だけをして、一年の英気を養うような、そんな一月だった。薪ストーブの薪を切って集めたり、夏野菜の片付けをしたりと、やることはいろいろあっても、１月から前がかりで仕事をすることは少なかった。でも、この頃は違う。特に、台風の被害を受けると、１１月や１２月と同じような悲壮な決意をもって１月も過ごす。まだ今年は、種の注文も、オイル交換もしていない。

　これだけ寒いと、葉もの類の生育はぴたーっと止まる。次の葉ものが育ってこない。焦る。畑も乾いている。乾いているからと言って、井戸水を出しても、朝の気温が０度前後だと、野菜が凍ってしまうだけだ。少し暖かい日が続く時に井戸水を出すが、またすぐに乾いてしまう。乾けば、微生物の動きも止まり、肥料成分を吸い上げてくれない。そこで、堆肥を野菜を囲うようにして施す。毛布のようなものだが、これを畑の野菜全部にやるには、時間が少な過ぎる。

　それでも、夕方の日の暮れるのが伸びてきたので、６時頃まで畑にいられるようになってきた。昨日も、出荷を４時半までに終えて、それから葉もの類の植え付けを行った。そしてまた、葉もの類の種播きした。これから、寒さと暖かさが交互にやってくると、アブラナ科の葉もの類は花芽が出てきやすくなる。１０度以下の低温に長くいると（積算温度など解明されている）花芽分化してトウが出てくるので、苗のうちは苗床をできるだけ１０度以上に保つ工夫がいる。それでも、これだけ寒いと１０度を保つのは難しく、花芽は出てきやすいので、何回も種まきや植え付けを繰り返して、葉もの類を切らさないようにしなければならない。

　今日は、次女の誕生日だった。１４歳になった。今月、次女は初潮を見た。この頃の女の子は早い人が多いらしいし、長女は小学６年生だった。遅いくらいのほうがいいんだよ、と思っても、やはり気にしていたらしい。親としてはやれやれである。子供を将来生む生まないは本人の自由だが、女の子なら子供を産めるくらいのからだに育てることも親のなすべきことの一つだと思うからだ。漫画家志望がどこまで貫徹できるかどうか分からない次女だが、好き勝手をふんわりと毛布で包むくらいのことはやってやらないと、とも思う。

　毎日せっせと、薪ストーブで沸かしたお湯を湯たんぽに入れて、絵を描く次女のところへ運ぶ。３時に起きる長女には、湯たんぽを毛布にくるんで、起きた時に利用できるようにしておく。奴らの力になれることはそのくらいで、あとは奴らの情熱次第だから。畑の葉ものも子供たちも、ぎりぎりのところで何とか育ってくれたらラッキーだ。僕にとっても、子供たちにも、畑の野菜にとっても、同じように今年ひと月という時間が流れた。

2013年1月31日　寺田潤史

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