「寒い寒い２月が終わって」

　寒い寒いと言っているうちに、２月が終わってしまった。２月最後の今日、久しぶりに暖かい一日となった。３月を春として迎えることができるような気持ちにさせる、そんな暖かさが嬉しい一日だった。気温１５度近くまで上がり、風も凪いだ。つなぎ服の下に着る防寒着を一新させるに十分な暖かさを、朝から感じることができた。

　この頃、小学六年生の三女が、学校から戻ると、嬉々として台所に立つ。おやつを作る楽しみを覚え始めたのだ。毎年、バレンタインデーの前になると、いろいろとチョコレートやクッキーを作ることを始めるのだが、今年は、バレンタインデーが終わっても、その熱は終わらなかった。うちには、僕の祖母(９８歳)専用の電子レンジがあるのだが、それを使ってスイーツを作るようになった。電子レンジで作るレシピをインターネットで調べて、何やら仕込むようになったのだ。そして、先の日曜日には、とうとうお年玉で電子オーブンレンジを買う、と言い出した。

　うちの食を担う連れ合いは、電子レンジは使わないし、オーブンを多用してパンやクッキーも焼くが、使うのは古いガスオーブンである。スイッチと火加減調整用のつまみが壊れ、古すぎて部品を手に入れることができないので、プライヤーでつまみを回している。そのつまみを、プライヤーを使って三女の力では回すことが困難だ。それで、電子オーブンレンジを買うという考えに至ったらしいが、クッキーなどをしっかりと焼くには、それなりの値段のするものでないとうまく焼けない。そんなに高いものを子供が買うことはできないので、、ネットで検索して、１万円に満たない「なんちゃって電子オーブンレンジ」を買いに電気屋まで出掛けたのだった。

　楽器でもそうだが、自分専用のものがあるということは、ある種の独立心を育む。今まで、お年玉は、お菓子や洋服、アクセサリーなどに化けていたと思うが、まさか電化製品に化けるとは意外だ。それがあるだけで、学校からの帰り道に想像が膨らむらしいのである。想像は楽しみになり、創造し、そして、不思議なことに、家族全員に均等に分けて味見をしてもらう、というような形も生みだした。わらび餅、メロンパン、大福などと、毎日おやつを三女が用意するのだ。実際には、大福はナンチャッテ饅頭だし、メロンパンは塩が聞いていないからぼけた味だし、とそう簡単にうまくいくわけはないのだが、保育園に長男を迎えに行くと車の中で「おねえちゃん、今日また何か作ってくれるかなぁ？」と期待されたりもするのだ。

　子供は不思議なもので、ちゃんと自分のやりたいことを発見してくる。ちょっとやってみたいものと、どうしてもやりたいものとは違うことを本人が一番よく知っている。長女のホルンもそうだし、次女の漫画家への道もそうである。この頃は、小学三年生の四女がサックスをやりたいと言い出して、学校外の吹奏楽の団体へ入る手続きをとった。それらは、すべて親の意思は入っていない。本人の意思と、親側の金銭や時間も含めた環境の内訳のすり合わせである。子供というものは、たとえばホルンの先生にしても、子供が自分で先生を評価するものなのである。親は子供に賛同して脇を締めるが、子供の意思はとてつもなく強い。親のすべきことは、インフラの整備と、精神、肉体の持続性への関与、それだけであろう。

2013年2月28日　寺田潤史

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