「決断の瞬間」

　暑さ寒さも彼岸まで、と言った人はえらいなぁと思っていたが、何やらこの春は蛇行しているようだ。極寒の２月と初夏のような３月を分けたのは、お彼岸ではなくてお雛様であったろうか？そして、当然のごとく、寒さの揺り戻しは来た。来たけれど、さてどれほどの揺り戻しなのか、様子見をしたくなるような揺り戻しだ。

　一昨日の三女の小学校卒業式は、入学式の頃のような暖かさの中で行われた。前日、もらってきた三女の成績表の最後のページには、将来なりたい職業についての作文が綴られていた。三女は堂々と、パテシェールになりたいと書いていた。少し面食らった。そんなに堂々と宣言するタイプの子ではないと思っていた、と自分自身が考えていたことに気付いたのである。

　長女がホルン奏者になりたいとはっきりと考えたのは、中学三年も半ば過ぎた頃である。次女の漫画家志望も中学二年の半ば過ぎ。その二人とて、一般的にみればとても早い志望だと思う。三女のパテシェール志望は、単なる憧れに近いものかとも思っていたし、その早い志望には、高校を行かないで専門学校へ行きたい、などの具体があった。この頃は、連日のようにクッキーを焼き、ケーキを作り、今日はパンを焼いた。パンの生地を発酵させて、さらに二次発酵までさせてパンを焼いた。それらは、親に聞くよりも先に、インターネットで調べ上げて実行に移している。発酵させるときに使う道具を探して、温度計などの道具を発見し、それは僕が昔買ったものだとわかって驚いてもいた。子供が行動をすると親の過去に当たる、ということであろうか？

　三女の後ろ姿を追ってばかりと思っていた四女がサックスをやりたい、と言い出したのはこの２月だが、少しサックスの音色を聴かせてみた。自分でキーボードを弾いて音楽用のパソコンから音を出し、４種類のサックスの音色と音程を自分で確かめさせたのである。意外なことに、音色に関して、四女ははっきりとした認識と興味を持っていた。サックスの中では、バリトンサックスの音、低音部分に魅力を感じたようだった。

　２０年ほど前の中古のアルトサックスの安いものを注文した。体格の小柄な四女であるから、テナーサックスやバリトンサックスは時期尚早であろう。四女の貯めていた二年分のお年玉だけでは全然足りないが、僕としては大きな決断である。投げ出してしまうかもしれないことに投資をしたような気分だ。それは、音色に対する興味と認識を拾い上げた結果である。僕が音楽をやっていなかったら、到底考えられない決断ではある。しかし、サックスのことは全くわからない。

　サックスの音色を聴かせた時に、サックス固有のキーのことも伝えた。アルトサックスだったら、ピアノのミの♭の音がドになる、というようなことだ。ピアノを習っているので、鍵盤で示せばわかりやすい。実際に自分で鍵盤をひいて、ミの♭からドレミファを弾いた。その時にふと思った。これは、相乗効果で、ピアノにとってもプラスに働くかもしれないぞ、と。サックスを覚える時に、ピアノの理解が手助けになるし、ピアノを再認識するかもしれない。要は、本人がやりたいと思ったことをやる時に、前向きなエネルギーが出たならそれでいい。親が動く瞬間、を上の子供たちも見ている。さて、どうなることやら？

2013年3月21日　寺田潤史

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