「演奏の匂い」

　フリートウッド・マック（Fleetwood Mac）というバンドの曲を今聴いている。久しぶりだ。高校２年の頃に、噂(Rumours)というアルバムを初めて聴いた。イーグルスのアルバム「ホテルカリフォルニア」がヒットした頃だったと思う。この２枚のアルバムは、当時本当によく聴いた。まだＣＤでなく、レコード盤の時期であることは言うまでもないが、宝物のように聴いていた。

　そして、今年、フリートウッド・マックの４曲入りが発売されたことを今日知った。聴いて、腑に落ちるのである。やっている演奏や歌が、ひとつひとつ納得できるのだ。この新しい曲を聴いて、ああ、僕は彼らのような音楽を聴いて育ったんだなぁ、と思う。昔はよかった、と言うつもりはないが、音楽を大事に聴くという経験を、今の時代との差として何が違うのだろう？と思い返すのだ。演奏の匂いを聴いて育ったのが、僕たちの世代であるのだろうか？

　話は少し逸れるが、先日新聞の記事で興味深い記事があった。尾崎豊という今はもう亡くなっている歌い手がいて、「卒業」などのヒット曲がある。僕たちよりも数年あとの世代の人たちがよく聴いたと思うのだが、歌詞に「校舎の窓ガラスを壊して回った」「支配からの卒業」などのような言葉があったと思う。その歌詞を現代の高校生などが読むと、とても理解できない、という反応が返ってくる、というような新聞記事であった。今は、面倒なことにはならないように気を配ったり、疲れることはしなかったり、というような時代感覚らしい。

　そこを僕なりに意訳してみると、曲を聴くことはするし、詩も聴いてはいるのだが、どうしても私に必要な曲（あるいはアーティスト）として聴くことは少ないのが現代の人たちの特徴なのかもしれない。それは音楽に限らず、すべてのものが、人と人、社会と環境、それらと自分の間のクッション材量として存在するような、そんな感覚と言っていいだろうか？一言で言えば、整合性を求めない世界が広がっている、ということかもしれない。

　音楽の世界では、楽器を演奏できない、楽譜も読めない、音楽理論も知らない、そういった人が、コンピューターで音楽を制作し、歌までもコンピューターに歌わせることが平然と行われている。まさに整合性は自分の頭の中の感性にのみ委ねられているような世界だ。コンピューターが演奏するのだから、楽器を演奏する人のことなど考えられていないのは当然だ。

　これを農業に当てはめてみれば、野菜工場のようなものであろう。土や雨や風、太陽、虫などの天然の影響を排除したものである。昔は、緩慢な有機質の肥料成分を速効性のある化学肥料に変え、虫や病気を薬剤で排除した、現在の慣行農法がそれに当てはまったかもしれない。化学肥料や農薬をふんだんに使ったものを２世代３世代と食べて現代という時代を作ったのならば、野菜工場のものを食べて２世代３世代と時間が経過した時には、どのような音楽が流れているのだろうか？と皮肉的に考えてしまいたくなるものだ。

　音楽であれば演奏してほしいし、演奏の匂いのするものを聴いてほしい。野菜であれば、土の匂いのするものを食べてほしいし、太陽の恩恵を受けたものであってほしい。人と人の間にあるものは有機的であってほしい、と思うことは時代遅れかな？

2013年5月16日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る