「梅雨時の収穫」

　六月六日に雨ザーザー降ってきて〜、なんていう小唄混じりのお絵描きを思い出す季節である。この時期は、昔から梅雨入りにふさわしい時期であったのだろう。ところが、今年は梅雨入りの発表が早かった。五月中の梅雨入りなんてねぇ？案の定、最初に雨が降ったきり、いっこうに雨は降らない。空は曇りがちでも、空気が意外に乾いている。昼間は湿度が上がって、蚊も出てくるようにはなったが、夜はかなり涼しい。

　それでも、明日は雨の予報になったり、雨の予報が消えたりして、雨の可能性がゼロではない、となると、畑の玉ねぎやジャガイモの収穫に心を奪われる。雨続きで手遅れになった収穫というものは、何とも気まずい雰囲気を醸し出すし、実際に腐りかけたジャガイモなどの臭気は断じていいものではないのだ。玉ねぎだって、雨の合間の収穫では、枯れかけた茎を引っ張るとヌルッとした手触りで、収穫の高揚感は絶望に変わる。それらの経験をいやというほどしているので、この時期の雨の予報には、自然とほかの作業を差し置いて、玉ねぎとジャガイモの収穫に心を持っていかれるわけなのだ。

　トラクターのバケットに鶏糞堆肥をすくい取って、畑に持って行ったところで玉ねぎの収穫を思い出した。毎日、収穫期になったかどうかをチェックしていたのだが、雨の予報と玉ねぎの葉の倒れ具合を鑑みて、こりゃ収穫しなきゃなるまい、と作業を変更したのだ。もうすでに、玉ねぎ畑は草で覆われている。しかし、草の茂みに手を突っ込んでみると、草も土も乾いている。玉ねぎを抜いてみる。玉ねぎも乾いていて固く品質も良さそうだ。これを雨に濡らしてしまう手はない。おもむろに玉ねぎを収穫し始めた。

　ニラ畑のすぐ隣に玉ねぎ畑がある。ニラ畑には一部、ミントの群れがあって、ミントの香りがプンプンだ。そのミントが、玉ねぎ畑にも進出している。ところが、不思議なことに、ミントの生えているようなところの玉ねぎは、草むらの中であるのに大きく成長している。品質も良い。ミントが成長しやすいような場所は、玉ねぎも成長しやすいのかもしれない。あるいは、コンパニオンプランツ（相性のよい作物）の一種かも？と思いながら、いっきに玉ねぎを収穫した。

　雨の前に玉ねぎを収穫し終えることは、精神的にも達成感が広がって良い。その玉ねぎの収穫が伝染して、連れ合いの恭さんは、今朝も朝からジャガイモの収穫に精を出した。イモ類の収穫をとりわけ好む恭さんであるから、僕はよほど緊急性がないとイモの収穫には手を出さない。やはり、同じ仕事をするにしても、自分の好きなことをできるだけ仕事の中心に持ってくるのが、精神的にも良いと思っている。小芋を先に新じゃがいもとして売ったり、イモ類の収納などの算段は僕がするのだが、イモを掘ること自体はできる限りは恭さんの仕事である。

　トラクターのバケットに積んだままの鶏糞堆肥は、一日遅れて、芽の出始めたばかりの里芋に散布した。昨日は、やはり芽の出たばかりのオクラや空芯菜にも堆肥をまいたし、胡瓜や南瓜にもまいた。夏野菜の世話にも時間を費やす時期に、玉ねぎやじゃがいもの収穫にも心奪われるのだから、何ともせわしない季節だ。南瓜の受粉作業も始まった。

2013年6月6日　寺田潤史

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