「子供の世界」

　人の心の中は見ることができない。それが、たとえ自分の子供であったとしても見ることができない。子供は、自分自身に忠実である。目の前のことに一喜一憂し、大騒ぎをし、泣きじゃくり、そして黙る。大人には、子供の世界を見ることができない。自分の子供時代を想像したり、話して子供に聞かせ、子供が自分から話してくれるのを待つ。

　大人と子供の世界の決定的な違いの一つには、時代の反映がある。子供の世界は、無意識のうちに現代を反映させた世界が広がっている。大人の世界には、過去の生きた時代が色濃く反映されていて、現代を正確に映し出していないのだ。現代は、大人たちの足跡の結晶だが、それはあくまで結晶であって、大人たちはすでに現代から取り残されている。取り残されて生きていることを知りつつ、こんな時代ではあかん、という反骨精神を現代に少しでもスパイスとして効かせようとしているかのようだ。そのスパイスが、子供の世界と大人の世界の違いを生んでいる。

　この頃では、子供を持たない人も増えている。それも時代と言えるかもしれない。そんな人も、子供を五人持つ僕も、かつては子供を持つ親の子供であった。だから、親の立場、子供の立場を連想することも悪くはないだろう。そして、子供を持つ人も持たない人も、これからの時代を背負って立つのは今の子供たちであることを認識している。自分の死んだ後の時代は滅んでよい、と考える人以外は、未来を託す子供のことを社会的なこととして考えるのも必然かもしれない。

　話を現実に戻すと、今日もファーマーズマーケットで「土日がまた忙しくて野菜がなくなりそうだから、野菜をたくさん持ってきてくださいね」と言われた。「はー、子供たちのいろいろがあって、なかなか大変なんですが、がんばって持ってきます」と答えた。そう、５人の子供たちがおとなしくしているわけがない、その典型が土曜日日曜日なのだ。やれ、コンクールだ、部活だ、ピアノだ、サッカーだ、なんていうのが重なり合う。送り迎えと出荷をリンクさせたり、用事がない人はどこかへ遊びに行ってもらったり…。

　しかし、一方で、子供たちは、ひとりひとり違う性格をもって生まれてきた。どちらかというと、皆、対人関係に対して消極的な子供たちである。家にいるときには、いつも姉妹弟喧嘩ばかかりしているのだが、外に出ればそれなりに皆思うことがあるようだ。家の中で「ねぇ、聞いて聞いて」という言葉をよく耳にする。何しろ、現代を正確に映し出しているのだから、ややこしい世界が平然と子供の眼前に広がっているのだ。その世界を家に持ち帰って、姉妹で愚痴る。

　内弁慶で、僕にも威張った口の利き方を平気でするが、心の中は、学校での一触即発を抑えて、家でのびのびするということだろうか？学校での社会構造は、そのまま現代の社会構造を映し出している。うまく立ち回ろうとする子供は、一方で自分らしくあろうとするし、大きなグループに属することができないほかの子供を理解している。自分の子供ながら、誰も大きなグループに属さないところを見ると、親が親だからな、と思う。僕自身が子供の頃から、大きなグループに属さない性質だった。問題は、自分自身で生き抜くことのエネルギーである。負のエネルギーを吐き出すことで、正のエネルギーは初めて発揮できるのだ。

2013年6月27日　寺田潤史

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