「子供の世界　その３」

　先の日曜日、小学一年生の長男のサッカーの練習試合があった。弁当を持ってお出かけ、というところが長男には嬉しくてたまらないようだった。サッカー送迎の車を連れ合いが担当することになって、早朝から連れ合いは担当の野菜の収穫をこなし、長男と二人で家を出た。僕は、マーケットへの野菜の出荷を大急ぎで用意して、四女のピアノレッスンの送迎に出荷を結び付けた。

　サッカーの試合は、連れ合いがビデオを撮った。梅雨が間もなく開けるという時節、午前中の試合は曇りがちだった。午後は、梅雨が明けた空だった。いつもは、午後の野菜の出荷がほとんどで、日曜日の午前出荷は初めてである。マーケットの入っているのは、お茶畑の中の巨大ショッピングモールである。朝の開店間もないのに、車の列だ。

　僕は、小学生の頃は野球少年で、試合に出たのは５年生からだったと思う。その頃、サッカー少年団なんて地元にはなかったように記憶している。今は、小学一年生から試合のあるのが当たり前の時代だ。だから、僕には、小学一年生の試合に臨む気持ちが、今一つ理解できない。怖いもの知らずの気持ちすら、まだ出てきていないような、そんなことを想像する。

　長男は、ほとんど毎日僕とサッカーをしている。夕方のわずかな時間だが、毎日となると、楽しみのほかにも、技術的な積み重ねを生むことになる。なんといっても小学一年生が大人に勝とうとして挑んでくるのであるから、闘争心を育むことになる。一方、少年団のほかの一年生は、放課後を児童クラブで過ごす子も多いらしく、サッカーをやるのは土曜日と日曜日の少年団の練習の時がほとんどである子も多いようだ。

　練習試合の結果は、ビデオと連れ合いの報告によって知ることになる。サッカー以前に、ビデオの撮り方を訓練したほうがいいかもしれない。長男のシュートチャンスになると、ビデオが止まる。止まるというよりも人のいなくなった芝生を映し出して、試合の状況が映っていないのである。試合自体に見入ってしまって、ビデオそっちのけというわけだ。長男は、ひたすらボールに食らいついている。攻めるのも攻めるが、守るほうも守る。毎日サッカーをしてサッカー慣れしている長男は試合において主役を演じることが多くなり、闘争心を発揮して常にボールにアタックする。言ってみれば、ボランチの役割をしながら攻撃的な役割も担っているような感じだ。

　僕が思いを巡らせるのは、ここまでサッカーに執着をしている一年生の頭の中である。この頃は、学校でプールの授業もあり、夕方には睡魔に勝てないで眠りこけていることが多い長男だが、１９時近くになると起き上がり、畑で作業をする僕を呼びに来る。サッカーをやることが心底好きなのか、サッカーなら親が付き合ってくれると知っているからか？どちらにしても、自分の子供であっても、頭の中でどのようなイメージや考えがあるのか、見当もつかない。

　夕方のサッカーが終わって、シャワーを浴びると、今度は足し算引き算の計算カードだ。ひと桁の足し算引き算を真剣に覚えようとする長男を見ていると、人っていいもんだなぁ、と思えてくる。あと数年たてば、生意気で微妙な思春期の子供に変わっていることだろう。子どもの世界は、大人が思っている以上に変化し続けるもののようである。

2013年7月11日　寺田潤史

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