「子供の世界　その４」

　夏真っ盛り、セミの声も大合唱状態である。からだは少々疲れているので、睡眠時間を長めにとっている。日照りのために、井戸水ポンプは２４時間フル回転である。だから、夜中にも井戸水の出口を替えに畑に出る。井戸水は冷たくて気持ちいいが、暗がりでiPhoneの懐中電灯アプリをかざすのは、なんだかなー、という気分だ。

　一昨日、めったに更新をしない音楽ブログにコメントをいただいた。７年前にインターネット上で聴いた女性の歌声に僕が良い評価をしたようで、そのお礼のコメントだった。その方は、その後、いろいろなことがあったのかどうかは知らないが、田舎に戻り、そしてまた周囲の方々の応援などで再度上京し、今はメインストリームではないかもしれないが音楽の仕事をされているようである。きっと、自分自身と向き合われた結果なのであろう。

　なぜこのような話題をしたかというと、子供がどのように変化し成長し、周囲の人のおかげで年を重ね、経験を積み重ねていくか、そのことに興味があるからである。高校の音楽科に通う長女が果たして、国立の芸術大学に入ることができるか？入ることができなかった場合には、どのような職業に就くか？入ることができた場合には、そのあとどのような選択をしていくのか？漫画家を志望する次女は、まったく先の見えない将来をどのように切り開いていくのか？そのように、５人の子供たちに、どのような自由を提供し、見守っていくことができるのか？

　この頃は、子供の親はやめたい、と思う時間が増えた。子供同士のいがみ合い、時間ぎりぎりになって親に頼る性質、言い出したらきりがない生活習慣のことも含めて、仕事しているほうがよっぽど精神衛生はさわやかである。野菜は、こちらが世話をしたら、応えてくれる生き物である。人間は、応え方が複雑怪奇だ。胡瓜に「愛しているよ」と言って世話をすれば、すぐに応えてくれる。人間に「愛しているよ」と言って応えてくれるのは、人生の中の断片的な出来事であろう。たいていの場合には、人間同士の距離が離れてはじめて応えたいと思うくらいだ。

　話を本題に戻すと、人が行きたい道を進むときに、どこに自分の視点を置くかを、誰が見ているか？ということが重要である。自分が強い意志を持って、流されないで突き進むことができたなら、それは一番いいことかもしれない。しかし、人は流される生き物であるし、流されてまた戻り、その繰り返しの生き物でもある。たった一人でもいいから、見ていてくれる人間がいたならば、それはどこかに心強いものを持つことになる。そして逆に、大勢の人が見ていてくれるということは、ほとんどありえないだろう。どんなに仲の良い友達をたくさん持ったとしても、本質を見ていてくれるのは一握りである。ここが、生きていくことの最大の難しさかもしれない。

　子供が、友達と仲良くしていることを見るのは好きだ。友達と仲良くできない性質の人だっている。しかし、友達と仲良くすることと、自分自身を考えることとは別のことだと思う。自分自身を考えることは、とても厳しい道である。音ひとつをとっても、３拍きっちり伸ばして吹き切ることは、自分自身と向き合うことである。子供が自分自身と向き合うことをよしとして、親は子供を遠くから見守り続けることができるのかどうなのか？

2013年7月18日　寺田潤史

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