「子供の世界　その５」

　夏休みだ。子供にとっては、一年のうちで一番の良い時期だろう。親にとっては、逆かな？会社勤めの方は、しっかりと夏休みもあるだろうし、それはそれで子供たちとの時間を確保できる時でもあるだろう。家で仕事をする僕たち農家にとっては、仕事おかまいなく子供たちがすり寄ってくる時であり、大変な夏休みとなる。

　夏休み、とりわけ小学一年生の長男にとっては、夏休みそのものをイメージできなかったようだ。初めての夏休み、初日の朝から四女と張り切って夏休みの宿題を片付け始めていた。しかし、午後には、やることがなくなった。そう、夏休みというものは、子供にとって何をしていいのかわからない時間でもあるのだ。何をしていいのかわからないくせに、おなかだけは大人以上にすぐに減ってしまう、やたらと手のかかるのが夏休みである。

　僕の子供の頃も、夏休みは暇だった。プールにいくのもつまらないし、親はどこにも連れて行ってくれないし（今も同じだ）、海のトリトンというようなテレビアニメにも飽きて、高校野球が始まるのを心待ちにした。高校野球が始まると釘づけになるし、自分ひとりの時間を、コンクリートの壁に向かってボールをぶつける仮想野球タイムを演出できた。それに引き換え、今、長男は、サッカーが好きなくせに一人では何もできずに、リフティングに精を出すということもしない。それでよくサッカー好きと言えるなぁ、と思うのだが、技術のほうは毎日僕と真剣勝負をしているので、上達してきた。

　この頃は、長男にドリブルすればいいじゃん、と言われて、そうか、それならドリブルしてやろうじゃないの、とばかりに右に左に右に左に切り返して長男を翻弄するのが快感になってきた。一口にドリブルと言ったって、ろくな経験もないのにドリブルで切り替えしばかりしていると、相当に疲れる。暑さも半端じゃないのだが、子供に負けるわけにはいかない。毎日やっていると、意外にも体力がついてくるのがわかるような気がするのだ。

　大人は、例えばサッカーをするのにも、そのように自分のカラダの具合を考えながらその世界を楽しむし、子供を伸ばそうとする。しかし、子供はそうではない。カラダの具合なんて考えないし、自分を伸ばそうとか、大人を伸ばそうなんて考えない。自分が勝負に勝つことだけを考えている。子どもの世界は、子供の目で見た自分自身の世界であり、まだ人のことまで考えられない世界でもあるのだ。サッカーをしている間は幸せな世界であり、親と一緒であれば満足を得られる世界だ。

　僕も子供の頃、壁にボールをぶつけていれば幸せだったと思うし、滅多になかったが父親がキャッチボールの相手をしてくれると嬉しかったものだ。よく考えて見れば、今、長男とサッカーをやるということは、稀有な体験かもしれない。お互いの世界が交わる世界と言うこともできる。子供が子供のことだけを考えている世界と、大人が自分のことと子供のことを考えている世界が交わる。これは、今だけの世界で、子供が大人になってしまえばなくなってしまう世界だ。夏休みは、そんな世界を引き寄せる時期なのかな？

2013年7月25日　寺田潤史

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