「夏の収穫　その３」

　お盆、終戦記念日、ということを忘れるくらいに、今日も出荷に明け暮れた。昨夜の同級生との宴会の酒が多少からだに残っていたが、朝の食事を抜き、収穫で汗をかいて切り抜けた。軽トラックで納品に出かけると、道路には家族連れなどおやすみムードが溢れている。大型ショッピングモールでは、より一層家族連れが目立っている。そう言えば長女が一足先に、このショッピングモールに買い物に出かけていた。昨夜同級生が「娘もそこの洋品店で働いている」と言っていた。僕がギターを教えている高校生も、そこの定食屋でアルバイトをしているらしい。縁があっても袖振り合わないほどに、大きなショッピングモールである。

　６月３日から始まった胡瓜の収穫は、当然ながら毎朝夕２ヶ月以上、腰をかがめていることになる。途中からネットに誘引した胡瓜も加わっているが、地這の胡瓜はがんばって実を成らせ続けてくれている。たまに、売り物にならないほどに大きくなってしまった胡瓜を発見して、思わず叫び声を上げる。「ウッソー！」「そんなー！？」「ジェジェー」などと、誰に叫ぶでもなく、ひとりごとのように叫ぶ。

　胡瓜は天才なのだ。葉に隠れてそっと実を大きくする天才。毎日、朝晩、胡瓜の葉をめくっているのに、気付かない自分が馬鹿にされたようだ。鳥獣や人間から逃れるために、多分そのような才能を磨いてきたのだろう。長い年月をかけて。そしてまた、収穫しても収穫しても、まだ成り続けてくれる胡瓜。美しい胡瓜を発見した時には、「おまえはえらい、すごい、素晴らしい」と独り言で褒めてしまう。そりゃー、堆肥や木灰、牡蠣ガラなどの追肥もするし、井戸水も毎日のように散水するけれどね、それにしたって、毎日毎日実を成らせてくれるんだからね。

　オクラだって、胡瓜と同じように、毎日収穫する。朝晩ではなくて、日中一度だけ。でも、オクラにはあまり褒め言葉をあげてない。胡瓜と違って、収穫時間が長いし、収穫でカラダが疲れ切ってしまうから、褒める余裕がないのだ。ところが、今日の出荷が終わった夕方５時。遅い遅い昼食を恭さんが作ってくれた。オクラ炒め入りのチャーハンだった。そのオクラがうまいことうまいこと。オクラを大きめに切って焦げ目がつくような感じで炒めると、より一層美味しく感じられる。明日は、オクラにも褒め言葉をかけなくちゃ。

　朝から晩まで収穫しているような、夏の収穫。カラダは疲弊してくる。でも、もうそろそろ、秋の野菜を考えなくちゃいけない。暑すぎて、種を播いても芽が出ない可能性もあるし、苗が育たない可能性も考えられる。だけど、この頃は、秋が短いから、気をつける必要がある。夏の暑さの絶好調なときに、秋の短さを警戒するのはなかなかイメージがわきにくい。

　夏の収穫はいつか終わる。夏の暑さもいつかは終わる。栄華には必ず終りが来るし、よくないこともいつかは終わる。サイクルの中に生きているのなら、次を考えなくてはいけない。次を考えなくてはいけないが、収穫がある限り、収穫は終わらない。自分のカラダはひとつだ。よい加減を見つけなくてはいけないね。よい加減を見つけるためには、どうしても秋の風がほしい。人は変化を感じた時に、自分も変化しようと思うものだから。

2013年8月15日　寺田潤史

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