「この夏を記憶に残そう」

　秋へ、気持ちは秋へ向かっている。はやる気持ちとは裏腹に、空気はドカンと生暖かく、皮膚に密着してくる。朝になっても気温２７度を下回らないことが多くて、ぐっすり眠ることができない。今朝は試しに、胡瓜の収穫を後回しにして、朝飯前にオクラを収穫してみた。冗談じゃない。オクラの収穫は「死のロード」と勝手に呼んでいるが、朝飯前にはさらにきつかった。空腹では、「死のロード」どころか、熱中症で倒れてしまうくらいだよ。

　この熱暑とでもいうべき暑さ続きは、食べることで何とか体を維持できているんだな、と改めてオクラが教えてくれているようだ。外で汗して働く者には、食欲がないなんてことはありえない。おなかがすいては、汗を吹きだしてなお働く余裕はなくなるのだ。高校受験生であるはずのうちのぐうたら次女は、まったく働きもせず、手伝いすらせず、うだうだと夏を寝過ごしているようなものだが、一人前におなかはすくとみえる。ご飯とみそ汁で遅い朝飯を食べさせた後、絵を描いていたかと思うと、いつの間にかベッドでまた寝ている。そしてまた、遅い昼飯を知らせて起こすと、またしっかりと食べる。夏こそ、食べることが夏を乗り切ることだ、とぐうたら娘を見て思う。

　昨夜は、久しぶりに種を播いた。農用冷蔵庫に貯蔵してある種を確認してみると、注文をしていない種を思い出して、あわてておかかえ種屋さんにファックスを入れる。トレイに、作り置きしておいた種播き培土を詰めて、いざ種を播いてみると、本当にこの暑さで芽が出るのかいな？と今更思う。そういえば、去年も、今頃まいた種は発芽が悪くて、播き直しをしたなぁ、と思い出す。徒労に終わるかもしれない、と思いながら、こんな天候では先が読めない、と思い返して、種播きを遂行する。そして、今日一日、さらに暑くて、その種を播いたトレイには、まだ水やりをしていない。空気が暑すぎて、背中を押してくれないのだ。

　年齢を重ねるから夏を暑く感じるのではなくて、本当に夏がどんどん暑くなってきた。夏の種播きを躊躇するほどに、暑さは秋への気持ちを削ぐ。先の日曜日、愛知県新城市まで堆肥の運搬に２往復してきた。エアコンの効いた４ｔダンプから降りた空気は、新城市よりもこちらのほうが断然暑く感じる。新城市では、４０度を超える日が２度あったそうだが、こちらは４０度を超えていない。新城市のほうが気温が高いかもしれないが、すこし空気がカラッとしている印象だ。こちらは空気がじっとりと重く感じる。気温という計測手段だけでは、暑さの定義は計り知れないというわけだ。

　考えてみると、人は、全体の要素から、ある部分だけを数値として取り出したがる。数値は数値として正確に記録に残るが、人は感じる生き物である。人が感じるものは、一つの要素だけではなくて、複合的である。さらに、テレビなどのメディアが、数値で測ることのできるものを誇張して伝える。そこを鵜呑みにしてしまいがちだが、メディアは人の感じた「感覚」を正確に伝えることは苦手である。要は、自分がその場で感じたことを、自分の記憶に残しておくことだ。それには、自分の感覚を磨くことも必要になるだろうね。

2013年8月22日　寺田潤史

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