「一日が収穫で終わってしまう」

　どうしてこうも毎日忙しいのだろう？夏というものは、いつも出荷だけで一日が終わってしまう。畑作業をする時間が取れない。かといって、朝晩の子供たちをほったらかすわけにもいかない。子供がたくさんいるということがいけないのだろうか？いやいや、連れ合いは、五人目にして産んだ長男をことのほか愛している。五人産んだからこそ、の今である。

　子供たちの夏休みが終わって、平日の昼間は畑の作業を邪魔されることはなくなっている。夕方には、子供たちがぞろぞろと帰ってくる。その時間に合わせて、だいたい一日の出荷は終わる段取りだ。出荷が終わって疲れ切っているところで一休みして、子供の話を聞く。その時間は、蚊の大群が出現する時間でもある。洗濯物をとりこんでいる時間もないほどであれば、蚊の大群の中を大急ぎで取り込んで、あわてて畑に出る。畑に出ても、蚊の大群であるから、蚊を叩くことにも時間を割かれる。世の中にうちほど蚊の多い場所もないのではないか？

　蒸し暑ければ蒸し暑いほど、蚊は絶好調となる。こちらは暑くて汗をかく。そこへ蚊が来るのだから、余計に痒くなる。労働と、蚊と汗と高温多湿は相性が良くない。家の周囲の草も伸びてきたので、布団を干すにも差し障りがある。昔の家のつくりのまま暮らしているので、水まわりに蚊が発生する。いっそ畑以外はすべてコンクリートで固めてしまって、木々もなくしてしまえば、蚊は激減するだろう。そう思いながら、聞いているのは夜の虫の声である。これだけの虫の声は、コンクリートで固めた場所では聞くことができないだろう。生活とは、常に一長一短を抱え込むことである。矛盾の中に生きていくことが、人の生なのかもしれない。

　草刈をしようと思って、草刈機を取り出すと、入れたばかりの燃料が空になっている。よく見れば、燃料を送るチューブが割れて外れている。チューブを直して、エンジンをかけようとしてもかからない。燃料を送るプライマリーポンプにひびが入って、空気漏れしているのだ。夕方、農家の専門店に行って、プライマリーポンプを買ってきた。油まみれになって夕方の時間と車のガソリンを費やせば、￥５００もかからないで刈払い機は修繕できるのだ。

　毎日が忙しい、ということは、うまくやっていない、ということかもしれないね。うまくやるということは、一口に言えば効率的な生活を送るということであろう。農機具の簡単な修理でも専門家に任せることである。でも、よく考えてみてほしい。効率的であるということは、現場の声を人任せにするということだ。飛躍しているかもしれないけれど、世の中の末端の些細なことに関わっていたら、効率的な生活はできない。油まみれになるようなことはしないのが、効率的な生活を求める人なのかもしれない。

　虫がいたら、虫を薬で殺せ、というのが効率的な世界である。僕は、そんな世界に住むことができないだろう。ならば、夏の一日が収穫で終わってしまうような、そのような中で生きることに満足を得られるような、そのような人間になってしまいたい。雑然とした一日一日を、せめて頭の中だけでもすっきりとした気分で送りたいとも思うのだ。

2013年9月4日　寺田潤史

バックナンバーへ

ご意見、ご感想、お問い合わせは、下記よりどうぞお寄せください。

★　ひらく農園の野菜の入手方法

☆　このページの最初に戻る