「２０１３年の台風」

　この秋も、しっかりと台風が来た。結論から言えば、畑に大きな被害はなかった、と言っていいと思うし、されど台風は台風であったので被害がないわけではない、とも言える。月曜日の祭日、敬老の日にやってきた台風は、子供たちの登下校を足止めすることもなかった。ただ、その足跡は、そこに住む人でないとわからないような様々な足跡であった。

　前日の日曜日、朝から地元地域の敬老会があり、朝型の雨もやんで、敬老会は無事終えることができた。僕の役割は、ここ数年、ビデオ撮影であり、まだ手を付けていないが、編集してＤＶＤに焼くところまで関わる。当日は、敬老会が終わると片付けも手伝わないで、そそくさと退出させてもらった。台風が来るとわかっているからである。

　台風の前は忙しい。台風が直撃すれば、ほとんどの野菜は全滅となる覚悟であるから、収穫できるものは収穫しつくしてしまいたい、という思いが出てくる。ファーマーズマーケットへの出荷や宅配便の出荷もある。しかし、僕には、台風が直撃しない、あるいは直撃してほしくない、という思いがあり、完全なる収穫はせずに、通常の収穫にプラスα程度にとどめておいた。具体的には、例えばオクラであれば、小さなオクラまですべて収穫することはしないで、ややいつもより小さめまで収穫するくらいにとどめたのだ。

　台風は、発生した当時から大きなサイズの台風ではなくて、日本列島の近くに来てやや大きめのサイズになってきたのだった。コースは、この静岡県西部地方を目指しているかのような、そんな予報である。僕は祈った。何とか少しでも、海側つまり南側にそれてほしい、と。ところが予想のコースぴったりにやってくる。そして、豊橋に上陸した、との発表で、もはや万事休す、と覚悟した。この２年ほど、豊橋や浜松に上陸して、斜め北側に進んでいくことが多かったので、潮風が強烈に吹いた経験があるからだ。

　ところが、豊橋に上陸した台風は、そのまま北へ向かった。台風が北へ行った後も、雨が降り続いた。雨が上がって、家の周囲の片付けを始めた。やはり、いろいろなものが吹っ飛んでいる。畑をすぐに見に行かなかった。潮風にやられた野菜を見たくなかったのだ。そして、畑に行ってみると、意外なことに潮風にやられて黒くなった葉があまりない。ナスの実は萎れてしまったが、ピーマンやオクラの実は大丈夫だった。シソの葉が吹き飛ばされてしまったが、バジルの葉は比較的大丈夫だったし、空芯菜やモロヘイヤも何とか無事だった。全滅を免れて、安堵した。

　実際には、すべての野菜で収穫量が減ってしまった。しかし、まだ収穫する野菜があるだけでもありがたい。オクラの樹はあちこちに倒れかかかり、ニガウリなどの支柱パイプは折れてしまった。一部のレタス類の苗には、水がどっと流れてやや数が減ってしまった。その程度である。街へ配達に行くと、今度の台風はたいしたことはなかった、という声をよく聞いた。しかし、海辺の僕たちのところでは、やはり風は強かった。風の向き、とりわけ潮風が吹かないと、これほどまでに被害に差が出るのだなぁ、と強く感じた。そして、まだ天に見捨てられたわけでもない、という妙なエネルギーをもらったような気もしてくるのだ。

2013年9月19日　寺田潤史

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