「お祭りの前の暑い秋」

　次から次へと、台風が発生している。今のところ、日本列島を右に左にそれ続けてくれている。それなかった先の台風十八号は、黒潮の流れを変えたようだ。漁師の友達の話によると、三か月ほど不漁だったシラス漁が、黒潮の流れが戻ったのか、台風のあとに少し獲れ出したとのこと。おかげで、久しぶりに生シラスを食することができた。持つべきものは、漁師友達である。

　台風十八号のあとに始まった玉ねぎの種播き週間は、もうほぼ終わりに近づいている。ところが、そのあとの高温続きで、玉ねぎの種の芽の出るのが早いこと早いこと。播いたトレイをあわてて畑に出す始末である。通常発芽まで、６日程度、寒ければ一週間を要するのだが、４日で芽が出てきてしまう。極早生の時期ならいざ知らず、晩生の玉ねぎまでが４日で発芽するのだから恐れ入る暑さだ。昨夜は、晩生玉ねぎだから５日目にあたる今日苗床にトレイを並べよう、と考えたのだが、念のために一応確認しておくか、とつぶやいて見てみると、本当に発芽しかかっているではないか！あわてて、暗闇に灯りをともし、畑で苗床を整備してトレイを並べたのだった。

　季節は、お祭りの季節である。この地方では、自治会ごとに大きな山車を持っているところが多く、熱狂的に盛り上がる性質がある。神社のお祭りであるのだが、地域ごとに、お祭りの日が一週間ずつずれている。同じ市内でも、昔から、今週は中泉のお祭りで、来週はこの地元、再来週は掛塚、と決まっている。問題は、いつも天気である。１年間待ち続けて雨になると、それは悲しいことになるので、お天気を皆気にする。今週末は、台風の影響で雨の予報が出ている。中泉の人たちは気が気ではない、ことが配達に行ってよく伝わってくる。

　そしてまた、気温も気になる。この暑さではたまらないだろう。夜はひんやりするくらいでちょうどよい。法被を着て丁度いい具合になってほしい。寒ければ寒いで、子供の心配もしなければいけないからね。小さな子は練らないことが多いので、夜、山車（この地方では、やたい、と呼んでいる）に乗っているだけで眠りこけてしまうと寒いのである。その小さな子たちは、連日、太鼓の練習に行く。夕方、地元の公民館でそれぞれに、太鼓の練習をするのだ。お祭りに向けて、子供たちは、否が応でも気分がどんどん盛り上がっていくのである。

　こちらは、それどころではない。暑さは大歓迎で、夏野菜をどこまでも引っ張るつもりと、秋野菜の植え付けや種播きで忙しい。本当は、お祭りどころではないのだ。が、そうもいかないのは、毎年のことだ。不思議なことだが、こんな田舎に住んでいても、歳をとればとるほどに、田舎が良くなっていく、そんな印象があるのだ。お祭りになると、ほとんど同窓会のように同級生の家を回ったり、集まったり、それが恒例となったのは、４５歳を過ぎてからだろうか？これだけの田舎に住んでいても、常日頃同級生に会うということはほとんどない。お祭りになれば、地元にいようが、都会に住んでいようが、みんな自分の街に戻ってくるのである。

　歳をとって地元がよい、という感覚の元になるのが、お祭りのための太鼓の練習かもしれない。一日一日とお祭りへ向けて気持ちを高めていく子供心が、毎年毎年、一年に一度だけ積み重ねられていくのだ。歳をとっても、皆戻ってくる理由の一つかな？

2013年10月3日　寺田潤史

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