「台風、台風、台風」

　台風２６号は大きな勢力だった。直撃していたなら、相当な被害が出たはずだ。伊豆大島の惨状をテレビで見るだけでも、身の毛のよだつ脅威であった。こちらでは、風が２０メートルほどの強さで吹いた。観測地点よりも海に近いので、実際はもう少し強かっただろう。幸い、南を遠目に通過してくれたので、潮風もほとんど吹かなかった。しかし、びくびくするようなコースを辿ってきたので、まさに天を運に任せたというのが正解だ。

　そしてまた、台風２７号が発生している。来週には、同じようなコースを辿り、同等以上の勢力でやってきそうだ。まるで、僕達の畑は、天に運を任せた存在、とでもいうようなものだから、僕達の人生もそんなものなのか、と思ってしまう。人間の世界でうまくやることが、人間の使命だとしたならば、その使命そのものが運頼みになってしまいそうだ。まあ、宝くじに当たるような運は持ち合わせていないので、労働の対価を運で支払ってもらうようなものだろう。

　畑というものがなければ、台風が来たとしても、命の心配をすればよいだけかもしれない。命を取られてしまえば、畑の心配をすることもない。しかし、実際には、命を取られていないので、畑があってはじめて僕達の生活が成り立つことから考えても、やはり畑と一蓮托生なのだ。こんなに台風ばかり来るならば、畑をやめてしまえばいい、と思う方もいるかもしれない。しかし、畑での作業はよいものなのである。人の労働の原点、のように感じられるのだ。

　地元のお祭が終わって、畑作業に戻り、里芋を掘り上げる作業をした。スコップを草の生えた土に刺して、土の中の里芋をごそっと地上にひと塊として出し、土を落としながら、親芋についた小芋をバケツに入れていく作業である。これだけのことなのに、あー畑仕事はいい、と思ってしまうのだ。手は泥まみれである。草のある畑で土に触るということの安心感は、人には伝わりにくいことかもしれないね。よく街で見かける、腕を日焼けから守る手甲をした女性ドライバーなどからしたら、里芋を掘り上げる作業なんてまっぴらごめんの仕事なのだろう。

　思い出してみれば、２４年前までの東京の生活は、手甲をした女性ドライバーと同じようなものだったのかもしれない。屋内でギターを弾いて、夜中に２４時間スーパーで働いたが、色白でひ弱な存在だった。体重は今と変わらない程度でも、在野の図太さのようなものがなかったと思う。在野の図太さなんて現代の主婦には必要ないのだろうけれど、僕にはそういうものが必要だった。そして、実際に帰納して、結果的にそういうものを手に入れたはずだ。その証拠に、里芋を掘ることに安堵を覚えている。しかし、台風様には、よろよろとびくびくしてひれ伏してしまうのだ。

　今さら、自然界に対して無力であることは感じない。対峙して生きているからであるが、勝敗を決めるならいつだって負けだ。サッカー好きな少年が、いつも試合では負けてばかりでも、サッカー好きは変わらない。自然界と対峙して生きることが好きなのだから、負けっぱなしでも構わないのだ。その結果、人間界でうまくやることができていないのだ。ふと思うのは、その人間界というものも自分が創りだしたものだということである。

2013年10月17日　寺田潤史

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