「葉大根があれば」

　秋から冬にかけて、葉物類がおいしくなっていく。これから冬になり、霜が降りると一層おいしくなる。しかし、夏から秋になっていく過程では、葉物類はなかなか出てこない。今年のように、夏が長引くと、虫たちも元気であるし、二十度台の気温では葉ものはすっと伸びてこないのだ。やはり二十度を切ったあたりの気温、すなわち秋の気温がよいのである。

　その秋が短い、ということは何度も書いてきたが、この頃ではニュースでも秋が短いと言い出しているくらいだから、今年の秋は本当に短い。この寒さの前にその僅かな秋を感じたのか、虫にやられてほとんど収穫はできないと思っていた小松菜や水菜が、すっと伸びてきた。しかし、それらは食卓にのぼることはめったにない。まずは野菜のお客さんのところに行く、というのがうちのやり方である。食卓にのぼるのは、潤沢にある野菜だけである。

　葉物類で最初に収穫できたのは、葉大根であった。それとて、１０月の頃には貴重であるから、収穫して調整して出た外側の葉の捨て去るものをとっておいて、自家用とするのである。その外側の葉は、最初に黄色く変色しやすいのである。しかし、自家用としては何の差支えもない。アブラナ科の葉物類を、長―い夏の間ずっと食べられなかったので、葉大根のからだに染み入ることと言ったら、カラダが喜んでいるのがわかるくらいである。

　葉大根は、炒めても、スパゲッティの具にしても、あるいは丼ものに入れても、とても美味しい。ただひとつの欠点は、葉っぱが大きくなるに従って、歯と歯の間に挟まって残ることだ。歯間ブラシを食後に利用すれば問題ないのだが、歯間ブラシを使えなかった時には、指で残った葉を取ろうとしてもなかなか取れない。もっと年を重ねたら、食べないでスープにしてしまえば、歯にも挟まらなくていいかもしれない。

　葉大根を食べてみて、それだけで栄養のバランスが悪くないと感じることができる。これは、自分の感覚だから、科学的ではないかもしれない。例えば、白米だけを食べたなら、それだけで栄養のバランスがとれていないような、カスカスした印象があるのだけれど、菜めしのように白米と葉大根が合わさると、カスカスしたような感触がなくなっていることに気づくだろう。現代人は自分のからだというものを、もっと信頼していいと思う。数値だけを信頼していたら、どんどん弱い人間になっていってしまいそうだ。

　秋が短くなっても、ひとのからだには歴史が積み込まれているから、今までの秋の情報が網羅されているはずだ。四季というものを何千年と読み込んできたからだには、おかしな気候に左右されない強さがあると思う。同時に、急激な変化に対応できない性質も否定出来ないだろう。それはまるで、現在の自分の目に映るものが、自分の過去の記憶に照らし合わせて見ていることと似ている。過去の季節の記憶から、安全な場所を選んで居を構えてきたはずなのに、そのことすら否定されるような津波や台風、土砂災害などが頻発しているのである。しかしながら、葉大根を食してカラダが喜ぶ感覚を、無邪気に楽しんで生きていくことのほうが、僕にはよほど楽天的に感じられるのだ。歴史の上に立っていることの楽天さよ！

2013年11月14日　寺田潤史

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