「木を切る」

　寒い季節がやってきた。僕の手はもうカサカサで、指はあかぎれしはじめている。先週の木曜日の朝には、「ちーち畑」の一部に霜が降りていた。気温五度を下回っていないのに、もう霜か、と呆れるばかりだ。野菜の成長は鈍るし、野菜を洗う手は冷たいしで、寒い冬は厳しいことが多いけれど、僕は冬が好きである。何と言っても、木を燃やして暖をとる、その生活スタイルが好きなのだ。

　１１月初旬にサツマイモを掘り上げて、コンテナに収納し、納屋に積み上げてある。品種にもよるけれど、貯蔵温度は１０度以上を必要とする。正確には１２度から１３度はほしい。それ以下の室温にならないように、薪ストーブを焚いている。ここへきて寒さが増したから、少し高めの室温にしておくことが、朝まで室温を保つ秘訣だ。子供たちも学校から戻ると、暖をとりに納屋に来る。納屋に来て、暖かくなければ、「なーんだ、あんまりあったかくないじゃん」と文句を言い、暖かければ、「うわーあったかーい」と喜んで勉強道具を持ってくるのだ。

　薪ストーブの薪は、北国ではないから、あらかじめ貯蔵しておくなんてことはしない。せいぜい雨の前に、三日分ほど用意しておく程度である。切り捨ててあった雑木を蹴飛ばせば、ボキっと折れてちょうどよい薪となっていることがわかる。松の樹の枯れたものは、まだ倒れずに松葉を落として立っているが、木に登ってノコギリで枝を切ると、ちょうどよい太さの薪と細い枝が利用できる。この薪集めは、実に風情があって心地よい。

　日が短くなって、出荷や畑作業に忙しく一日が終わる。しかし、木を切って薪集めをする時、束の間ではあるが時間がゆっくり進む。ノコギリを引けば、カラダは暖まる。ノコギリという道具は、人間と樹木を同じ目線に置いてくれる道具なのだ。木は、死んでも使い道のある息の長い生き物である。楽器製作者なら、木をピアノやギターなどの楽器に変身させて、長く人の世界に生きるものとすることもできる。僕のようにギターを演奏するものは、３０年以上も一つのエレキギターを奏でることができる。

　台風で斜めに傾いた松の木は、根がやや持ち上がり、やがては枯れてしまう。斜めに傾いていると、木に登るのも比較的楽だ。のぼることができなければ梯子を掛ける。座りの良い場所を見つけて枝をまたぎ、ノコギリで切る。油断すれば転落してしまうので緊張感はあるが、時間は止まっているようなものだ。緊張感は、木と対等に渡り合うことを意味する。時間は止まり、やがておろした木を運んで細かく切断する。木を切ったところで、お金を稼ぐわけでもない。木を燃やして暖をとり、湯を沸かし、菜を料理するだけだ。

　お金を稼がないそれらの仕事は、穏やかな気分をもたらす。どこかに落ち着いた気分を満たすのは、きっと昔からそうして人は生きてきたからであろう。だからこそ、時間が止まるのだ。貨幣経済は、多くの人からそれらの穏やかさを追いやっているかのようだ。少なくとも冬の間は、僕の穏やかな時間を確保できる。仕事として確保できる。木を切って、太いものも細いものもすべて利用できるところが薪ストーブのよいところかな？

2013年11月28日　寺田潤史

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