「２０１４年に向けて　その２」

　「自分らしさを貫く」という今年の目標には、家族へのサポートも含まれる。今年は、次女が高校受験であるし、長女も来年が大学受験になる。次女の高校受験は、美術系一本であるから、それほどの切迫感はまだない。極端な話、高校へ行かなくたって漫画は描くことができる。しかし、クラシック系の大学受験を国公立で目指す長女は、正念場の年になる。

　クラシック音楽を専門とする国公立大学は、日本に４つしかない。そのほかの私立大学は、四年で７００万円から８００万円以上の費用が掛かる。あとに４人の子供が続くうちでは、無理な金額である。だから、最初から私立音楽高校に通うと決めたときから、長女に伝えてある。国公立大学に入れなかったら就職ね、と。クラシック音楽の世界で、大学に行かないで音楽家になる人は、稀な存在であろう。まして、中学から楽器を始めて、中３の夏になってはじめて先生についた長女にとっては、大学に行かなければ演奏家の道は閉ざされてしまうことに近いのだ。

　長女が毎朝５時半に家を出て、６時の始発に乗り、６時半過ぎから練習をすることが日課になって、一年半が過ぎた。演奏家になる、国公立大学に進学する、という目標があるからこそ、できる日課である。しかし近頃は、無理でも仕方がないね、と感じることもある日々であった。親としては、毎日のことであるから、持久戦である。早朝に弁当を持たす連れ合いと、音楽面精神面のサポートをする僕が、まあ精一杯やればそれで納得できるだろう、と思うのも大して変化のない長女の日常を見ていれば、至極当然のことのようにも思う。

　先日、コンクールがあった。大学浪人を含む高校生のカテゴリーに、去年に続いて長女も参加したのだ。午前中の中学生のカテゴリーから演奏を聴いていた僕は、長女の去年の演奏を思い出しながら、こんなに吹けるのかな？と不安であった。去年入賞した現在高校３年生の人たちも参加している。それらの人たちの演奏を、演奏のミスの回数を数えながら聴いていて、すぐに長女の出番になった。出だしの音を聴いて、おおと思った。去年とは明らかに音の質が違うのだ。演奏が進むにつれて、これは賞をもらえる、と思えた。と同時に泣けそうになった。

　この一年、その積み重ねは伊達ではなかったんだ。長女を教える先生の、執念のようなものも感じた。先生とすれば、先生の母校に教え子を入れる、という目標があると思う。しかしそれは、先生の熱意と、教えられる長女の限りない努力の積み重ねが最低限必要なことだ。先生は、伸びしろがある、という言葉を高校入学前に言ってくれたが、それはその努力を積み重ねる何かが備わっている、とみなしての入学許可だったのだと、今は思う。

　結果は、１位から３位には入れなかったが、賞は頂いた。高校２年の現時点では、今後の良いモチベーションとなったであろう。ここからが大変なのだから、そのモチベーションはエネルギーの持続の糧になる。と同時に、親のモチベーションにもなるけれど、親のやることは今までと変わらない。好きなことに向かって努力を積み重ねることとは、いったいどういうことなのだろうか？その積み重ねの中で、人は何を学び、変化していくのだろうか？子供に対峙すればするほど、人が生まれてきたことの意味を自分に問うことになる。

2014年1月16日　寺田潤史

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