「２０１４年に向けて　その３」

　今年の冬も寒い。朝、何枚もの雨戸をあけると、ひんやりとした空気にピリッとなる。年末に他界した祖母の骨を置いてある座敷もしかりで、廊下はさながらお寺の本堂のようなひんやり感がある。この明治末期に建てられた日本家屋には、子供部屋を除いてサッシというものがない。隙間風が吹くような密閉されない空間というものは、夜の間に見事に冷え込むものだ。

　大寒前後のこの時期、マイナスの気温も多く、畑にも頻繁に霜が降りる。畑の土は乾燥し、土の上に載せた堆肥も乾いている。今日は、今年初めて井戸水を出した。先日植えつけた葉もの類が干からびてしまう前に、潤いが必要だったのだ。温度と水分が極端に低い状態では、野菜はほとんど成長した姿を見せない。正確にはゆっくりと成長しているのだが、太陽の恩恵をたっぷりと受けているとは言いがたいくらいの野菜たちは、土に張り付いてできるだけ太陽を浴びようとしている。温度の主（ぬし）たる太陽の光のもとで進化を遂げてきた野菜たちは、ほとんど太陽神と言ってもいいくらいの唯一信仰ぶりを忘れてはいない。一方で、人間はすぐに生い立ちや歴史を忘れやすい性質だ。人間だって、太陽ありきで進化してきたことは間違いない。

　科学万能のこの時代、科学信仰と言えるくらいの、人々の盲目な信仰ぶりは、人間の味わいを失くす方向へと進んでいるようにも感じられる。デジタル信仰は典型的な一例であるが、片方でアナログ信仰の人も少なからず存在する。どちらにしても、盲信してしまえば新興宗教と何ら変わらないだろう。優劣のラベルを貼ることに時間を費やすよりも、ちょっとこの感じいいなぁ、を自分に記憶して積み重ねることが、自分で物事を判断する良い訓練になると思う。

　人が何かを体得する場合、同じことを何度も繰り返す、いわゆる反復練習をして体得していくという方法がある。スポーツや楽器などの訓練はそれに当たるだろう。植物や動物などの進化も、たとえば毎日太陽にあたり、規則正しく太陽の恩恵を受けることが知らず知らずのうちに繰り返し蓄積されていくようなものかもしれない。その長い期間、数千年あるいは数万年を経て蓄積されたもの、それをここ１００年程度の間にあっさりと捨てることができるのは、人間が忘れやすい性質を持っていることもひとつの要因かもしれない。

　しかし、スポーツでも楽器でもそうだが、若いころに反復練習をして体得したものは、歳を重ねてからまた反復練習をすることで、ある程度はよみがえるものでもある。太陽や雨や風の恩恵を受けることもまた、数千年のうちのたった１００年を忘れたくらいであるから、いつだって取り戻せるものだろう。取り戻そうとする意志がなければいけないのだが、どうも人間はそれらの恩恵よりも人工的なもののほうへ突っ走りたくてしかたがないようにも見受けられる。

　畑で葉物類の植え付けを機械で済ませ、苗の手直しや欠株への補植をする時、太陽の光に照らされて作業をすると、暖かさに包まれて気持ちいい。その暖かさは、室内の暖房の暖かさとは違い、エネルギーに満ちた暖かさである。すべて機械で済ませたならば、エネルギーに満ちた暖かさを経験できなくなるのだ。そう、長く続いてきたものを一度に切って捨てることをしないで、反復練習をしながら新しいことにチャレンジするのがいい。

2014年1月23日　寺田潤史

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