「自分の判断を揺らがないで　その２」

　アナログの感触が好きだ。と書いて、昔の人はすべてアナログだった、と思い返す。畑仕事はすべてアナログである。農に限ることなく、手足を動かして筋力を大いに使い、屋内外隔てずに、アナログの仕事は技術、すなわち手仕事に直結する。本のページをめくって、筆を走らせることもまたアナログであろう。デジタルの世界が、人と人とのつながりの一助となる利点や、高価なハードウェアを必要としないで表現できるという恩恵は、もはや失い難いものではあるが…。

　年末、祖母の他界する前から、音楽専用に使っているパソコンが故障した。忙しくてそのままにしてあったが、どうにもそのままにしていると、自分自身のよりどころを無くしてしまっているようで、居心地が悪い。AppleのiPhoneを使っているし、僕の兄貴がApple至上主義なので、Macにいっそ変えてしまおうかと思ったが、金銭上の理由で断念。まあ、音楽ソフトでMac最新版に対応していないものが多いし、今までのソフト資産を考えれば、Windowsで行くほうが実質的で気楽ではある。などと、日々の空間をそんなことで埋めていること自体が無駄のような気分になる。アナログの手触り感のないところで時間を使うこと自体が、自己嫌悪の元であるのだ。

　そうこうしているうちに、次女のパソコンが調子悪いので、初期化することにした。２００７年に仕事用として購入以来、はじめての作業である。５年使えば、もう償却済みといったところで、次女の絵の糧としていたが、初期化は難儀であった。壊れない、ということの弊害は、初心に戻ることが困難である、ということかもしれない。初心に戻る必要がない、ということが安定神話の土台になるのだが、それは基本をおざなりにしてしまうことにつながることは否めない。壊れないはずの原発神話のように、いざとなった時には難儀、難儀の連続だ。

　パソコンの初期化ついでに、データを整理し、次女のパソコンからハードディスクをひとつ取り出して、フォーマットし、音楽用のパソコンに使うことにした。４月上旬でサポートの終わるWindows XPを使っていたので、Windows 7に刷新するというわけだ。その壊れた音楽用パソコンであったが、もう一度CPUを取り外して、次女のパソコンに付け替えてみると、なんと作動するではないか！音楽用のパソコンでは、CPUが少し外れてそこにホコリが入ってCPUが冷えない状態になってしまったのだろう。それらを修復して、CPUとCPUクーラーの間にグリスを塗って、めでたく復活である。そして、Windows 7 64bitの環境となった。

　それにしても、次女のパソコンを２００７年の状態に戻してからの、サービスパックの更新やソフトの入れ直しには大いに時間がかかるものだ。丸ごとバックアップを作っておくことが重要で、それこそが常に初心を忘れないことになるのだろう。デジタルを利用して便利であるということの裏に、これほどの大変さが潜んでいるのだ。夜な夜なこんなことをやって、ようやく開放されて、アナログライクな生活に戻ることができた。この生活に、デジタルを利用しているだけである、という判断基準に揺らぎがなければ、集中力は保たれたまま作業できる。まあ、たまにはデータの大掃除もやれ、ということだろう、ね。

2014年2月13日　寺田潤史

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