「自分の判断を揺らがないで　その４」

　とても寒い冬だったと思うのだが、二月も末になって、一転して春を感じさせる陽気になってきた。あの全国的な大雪は何だったのか？というくらいの暖かさである。今日は４０ミリもの雨が降って、夜になって気温は上がり、今１５度もある。薪ストーブを焚く必要がない暖かさだ。前回の雨がいつだったか、５０ミリの雨で冬らしくない雨だったが、今日も大いに降った。暖かさと寒さ、降る時の雨の量、吹くときの風の強さ、まさに極みである。

　農の世界に生きていると、お天気に敏感になり、四季の国とはいえ、その移り変わりの激しさに打ちのめされているような気分になる。四季の移ろいを味わっている余裕がない、というのがこの頃の印象だ。今日のサッカーニュースで、マンチェスターユナイテッドの香川選手が言っていた。「物事は急には変わらないので、やるべきことをやっていくほかはない」と。それを伝える記事の作成者は、悲壮感という言葉を使っていたが、「なんかこの農の世界の打ちのめされた状況に似ているな、あまり試合に出られない香川選手の状況は」と思ってしまった。そう、野菜の成長も遅々とした歩みで、急激な変化はないのだ。

　サッカーは楽しいスポーツである。けれど、激しく戦闘的であり、肉体的であるが、知能的でもある。野菜を育てることは楽しい作業である。うららかな春の日に、ゆっくりと草取りをして野菜へ思いを馳せる、という時には実に楽しい。自然環境の激しさ、とりわけ台風、大雨、大風、酷暑、厳冬、それらはまるで苦行僧に近いような、そんな農の世界もある。楽しいはずが、苦行にもなる、それが人間の世界なのであろう。

　音楽の世界でも同じだ。作曲でも編曲でも、ソロ演奏でも、必ず壁にぶち当たる。やっつけ仕事ならば壁はない。しかし、自分らしさとオリジナリティを自分に課した時には、必ずうまくいかない状況がやってくる。それを繰り返しチャレンジする。それは、農の世界もスポーツの世界も同じなのだろう。そして、繰り返しチャレンジしていけば、必ず道は開ける。それは、最良の道かどうかはわからないが、納得の道にはなる。

　長女が３月末に、ホルンで全国大会に２大会出場することになった。それを見ている妹弟がいる。全国大会なんて、誰もが経験できる場ではない。長女は、それに見合う努力をしてきたし、生活を変えることには成功した。しかし、妹弟たちは、生活を変えることまでには至っていない。努力をする才能は、生活を変える才能でもあり、それを維持し続ける才能でもある。しかし、それには、周囲の見守りが必要だ。誰にもある生活とか仕事とか、重要なことを為しつつ、努力する人を応援する見守りが必要だ。サッカーの香川選手を見守るたくさんの人も存在するだろう。

　どんなことも、自分自身のことではあるが、一人では成り立たない。一人で打開しようとし、人を頼らないように努力もするだろう。しかし、自分一人ではどうにもならないことがある。まるで、お天気の様のように、人間の世界に降り注ぐ。その流れに添うことが大事なときもあるのだ。暖かくなったこの冬の終わりに、カラダが楽に軽快に動くことの気持ちよさは、あの寒さを耐えてきてこそ味わえるものであることはいうまでもない。

2014年2月27日　寺田潤史

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