「最後の冬を味わう」

　先週の５０ミリの雨のあと、春真っ盛りのような陽気は萎えて、週半ばの一昨日には１００ミリもの雨が降った。いや、正確には、外に置いてある深さ１４cmほどの容器が雨で満杯になっていたので、もう少したくさん降ったのだろう。毎年、一回の雨量が増えていく。数年前は、一度に１０ミリの雨ばかりになって「雨の量が増えたなぁ」と思ったものだが、それが、一度に２０ミリ、３０ミリと増えてきて、今年はほとんど５０ミリである。要するに、降る時にはドカンと降って、乾燥する時には乾燥して、というような傾向に拍車がかかっているのだ。しかも、冬でもその傾向が強い。

　今回の雨の後、風が吹くのは通常だが、寒が完全に戻って、今朝は０度の気温。これが最後の冬になるのかな？納屋の薪ストーブの薪集めもそろそろ終了に近く、薪を集めるにも風情を楽しんでいる。この冬も寒かったので、夏野菜の種播きは遅めにした。あまりに寒いと、発芽率が悪く、播き直しをしなければいけなくなるので、確実な種播きの日取りを選ぶ。今回の寒の明ける頃に芽を出し始めるような感じに、種を保温するのだ。

　今回は、雌鳥（めんどり）のように、僕が種を抱いている。これは、種苗メーカー推薦の南瓜の種の発芽方法だ。種を湿った布でくるんでビニール袋に入れ、２４時間自分のからだで温めて発芽を促す方法である。確かにこれなら、３０度をいつも確保することができる。それで、種が発芽しかかったところで種播きトレイに播種するのである。種播き培土が詰められた種播きトレイにはお湯で潅水し、予め温めておく。そして、種を播いたあと、お湯を使い古しのペットボトルに何本か詰めて、大きな発泡スチロールに並べ、その上に種を播いたトレイを並べてフタをする。こうして、温度を確保し続けるのである。

　ズッキーニや胡瓜にもこの方法を用いるが、トマトやナスなどには、僕の雌鳥を省いた形で対処する。お湯は納屋で沸かしたお湯だから、かかるのは手間だけだ。これも、冬の作業の大事なところであるから、冬を味わっていることになる。何事も手間を掛けなくちゃ味わえないね。雌鳥になるのだから、親のような気持ちになって、種を大事に思う気持ちが芽生える。畑への直播きのホウレンソウや人参、大根、ごぼうと違って、苗を育てる時には、種の一粒一粒を大事に思うところが、ひとつの良さでもある。

　種や苗を大事に思ったり、命あるものをいつくしんだり、そういうことは現代ではどうも重要に思われていないような気がする。この頃の凄惨な事件のニュースを見るに連れ、そういうこととは無縁に育っているからこそ事件を起こすことができるのではないか？とさえ思う。ここ数年の度重なる台風で、僕の植えたアカシヤの樹はことごとく倒されて、３年ほど前に新しく植えたアカシヤも１本が生きているだけになってしまった。冬の終わりに咲くアカシヤの黄色い花は、以前はたわわに咲き誇っていた。今は何とか、かろうじて咲いていてくれる程度である。もう一度咲かせて見たいと思う。命あるものは、冬のような厳しさを耐えて、春に再生するかのようだ。粘り強く生きることが、再生につながる。震災から３年だ。

2014年3月6日　寺田潤史

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