「人工授粉のタイミング」

　今年も毎朝、ズッキーニの交配をしてきた。春が寒かったので、花が咲き始めるのが遅かったが、雨が少ないので順調に交配することができている。ズッキーニは南瓜の仲間だが、人工的な品種の側面が強く、自然交配力が弱いと感じる。南瓜などは、虫まかせの交配でもそこそこの南瓜は収穫できる。しかし、ズッキーニは、人工交配をしなければまず収穫は見込めない。だから、毎朝花の咲いているうちに交配に出向くわけだ。

　花であるから、雄花と雌花がある。雄花を摘み取って、その花粉を雌花にこすりつけるのが人工交配だ。ところが、雄花がたくさんあっても雌花が少ない時もあり、その逆もまたある。そのバランス感覚のために、黄色いズッキーニと緑のズッキーニの両方を作付けている。黄色いものはそんなに売れるものでもないけれど、色味が綺麗だ。、緑の付け合せとして、黄色は映えるのだ。花のタイミングもどういうわけか微妙に違う。実の大きさも違う。畑の土質によっても、成長の具合は変わる。が、その成長を合わせるようなことはあえてしない。

　肥料成分の少ない畑では、やはりズッキーニの株の大きさ、葉の大きさが小さい。小さくても花は咲く。華が咲くということは、ほかの大きな株のズッキーニの受粉の手伝いはできるということである。ある程度の数の実を収穫したならば、あとは受粉専門になってもかまわない。常に揃った大きさ、つまり規格に添った野菜にする必要はないのが、僕達の販売形態である。画一的な教育で画一的な人を育て上げる、という形が好きでないので、それは野菜にも反映される。エリートのレギュラー選手ばかりがえらいのではなくて、たくさんの控え選手だったり、愛好家が存在することが必要であることと似ているか？話がそれた。

　ズッキーニの収穫のタイミングは、その実の太り方と、花の朽ちていく具合によって判断する。すっと育つものがよいけれど、よい育ちだからといって早く収穫し過ぎると、花がポロッとうまく取れないで、無理やり取ることになる。これもまた人間世界に似ている。人工交配という手をかけなければ育たないのだが、早熟に過ぎるとやはりよくない。逆に、収穫が遅すぎても、実に苦味が出たりする。

　ズッキーニの収穫が終わるのは、天候によっても変わってくるが、だいたいワールドカップサッカーが終わる頃であろう。そして、その頃には、オクラの収穫が始まるだろう。夏は、ズッキーニの収穫に始まり、胡瓜、オクラ、ナス、ピーマン、トマトと、収穫することが仕事の中心となる。その間にうつろいゆく風物詩を、ゆっくり愛でている間もなく、夏は過ぎていくものだ。

　家族という季節もまた、慌ただしく時を早足にする性質を持つ。まさに夏野菜のような子供たちが、日々怒涛の勢いで回転している。その好奇心の受粉のタイミングだけは逃さないようにと、注意しなければいけない。自然交配だけで済んでくれればいいのだが、そうは問屋が卸さない。綱渡りに綱渡りを重ねて、何とか日々をくぐり抜けている。いつかは終わるサイクルだが、当事者にとっては永遠に終わらないサイクルのように感じられるのだ。人は、もはや人工授粉がないと育たない生き物になってしまったのだろうか？

2014年6月27日　寺田潤史

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