「台風、報道、情報、祈り」

　台風は、この南の海上を通過した。９９０ヘクトパスカルまで勢力は衰えていたせいか、テレビなどで騒ぐほどに雨風は強くなかった。騒ぐだけ騒いで何も被害がなかった、というほうが被害があったよりはずっといい。台風の来る直前も雨はほとんど降っていなかったし、一時的に２０メートル弱の風は吹いたようだが、そのくらいの風なら通常の突風程度の風である。そのような風は、潮風ももたらさないので、被害はなかったと言うべきだろう。よかった、よかった。

　このところ毎年同じような時期に台風が来るようになった。これは、一時的な気候の変動ではないことを示している。それが人間の業の結果であろうが、あるいは地球そのものの営みであろうが、気候が変わってきていることは確かだ。それを、僕たちは受け入れなければいけない。虫たちは、台風の前には一斉に身を隠す。そのような習性が身についているのだろう。それは、彼らが気候の中にのみ、生きているからだろう。人間もそのような生き物であったはずだし、実際も気候の中に生きているのだけれど、建物の中ではその気候から大きく影響されないように過ごすことのできる時代を作った。

　テレビでは、繁華街から人々の姿が殆ど見えない、と台風の状況を盛んに伝える。当たり前なことを報道している。虫たちが身を隠すことを報道する必要もないのだが、人が身を隠すことを報道する必要があるのだろうか？土砂崩れがあれば、どこまでも駆けつけてすぐに報道する、それが当たり前のような風潮を作り出している。一方で僕たちは、畑の被害ばかりを心配している。僕達自身が生活していけなくなることを心配するのだ。

　この頃は、テレビでなくても情報が手に入るようになった。インターネットの気象情報はありがたいものだ。パソコンで随時情報を確認し、出先ではiPhoneで確認できる。９８５ヘクトパスカルで潮岬付近、という情報を見れば、大方もうそんなに心配することはないと思えるのだ。もちろん台風が来てみなければ実際のところはわからないのだが、外の様子と合わせて考えれば、テレビの大騒ぎに左右されることはない。土砂崩れや氾濫があったところは、大変であったろう。しかし、だからと言って冷静さを失う必要はない。

　反対に、テレビでは大して騒がない時に、自分たちのところは壊滅的な被害である、ということもある。報道されようがされまいが、誰も助けてくれるものではない。結局のところ、ただ単に気候を受け入れるだけなのだ。せいぜい、被害のあった時のために、小さめのものまで多めに収穫するくらいのことだ。

　ただ単に気候を受け入れるだけなら、虫たちのように自分たちも身を隠していればよいことのはずだが、そんなに簡単に割り切れるものでもない。心配して心配して、祈るような気持ちで推移を見守るのだ。そして、台風一過、神棚や仏壇の前に座って、祈りが通じたかもしれない、とお礼の祈りを捧げるのである。畑に出て、モロヘイヤや空芯菜などの葉物が無傷であることを確認して、昨日までと同じように収穫できることの喜びを噛みしめるのだ。当たり前のようなことが嬉しい、その大事なことは報道には値しないのである。

2014年7月11日　寺田潤史

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