「汗とイメージ」

　ついこの間まで初夏の気分の中にあったと思っていたが、もはや夏真っ盛りとなってしまった。ゲリラ豪雨と台風にイメージされた梅雨は、この地方では空梅雨でもあった。気候の変動とその対処で、時間だけが過ぎていく。確かに、汗は毎日信じられないほどにたくさんかいている。その汗と、汗を落とすこと、着替えることでただ単に時間が過ぎていくような錯覚に襲われる。

　夏は、正直なところ、自分自身に対する疑問の中で過ぎていくような気がしている。暑ければ暑いほどに夏野菜は成長する。暑ければ、畑の水分が猛烈なスピードで奪われていく。そのまま置いておけないので、井戸水を出す。そうすると、夏野菜は気持ちよさそうにその実を成長させる。僕たちは、ただただその実を収穫する。ありがたいのだけれど、ありがたがっている余裕が無い。汗をたらたらと流して収穫する。暑いので、納屋のエアコンに当たって、からだを休める。その繰り返し、それだけのような気がしてくる。これでいいのか？という疑問と、からだの疲れがあって他のことまで手が回らずに、どうしようもないという無力感が汗とともに流れるのだ。

　この繰り返しだけというのは、人間が野菜という植物に働かされているだけ、という見方をする人もいる。そしてまた、それでいいのだ、という考え方もある。植物と植物の間で生きているだけでも幸せだ、という考え方があっていい。植物と植物の間に入っている時間は、汗にまみれている時間であり、人と人との間に入っている時間ではないから気が楽である。そこを期待して農業の世界に入る人もいるだろう。しかしそれだけでは、イメージ不足だ。

　世の中では、平気で人を殺してしまう戦争というものに疑問を持たない人も少なからずいることが、連日のニュースで教えてくれる。食べ物であっても、見えないところでは何でもあり、というニュースも後を絶たない。さらに、こどもをさらって自分好みの女性に仕立てて妻にしたい、と本気で目論む人もいる。それらの人には、多分真剣な言い分があるのだろう。でも、自分の子供を戦争で殺されたくはないし、子供に厄介なものを食べさせたくもない。ましてや、自分の娘が、誘拐されて平常心でいられるわけはない。そのような想像は、良くも悪くも自分が加害者にならないブレーキにもなるだろう。そのブレーキを外したままの人が増えているのか？

　夏休みに入った次女は、早速学校の行事で、三重県までスケッチ旅行に行っている。どうも今の子供たちは、お金がかかるような仕組みの中だけにしか生きられないようだ。僕たちの高校時代には、電車で山の中の川べりへ行って、たくさんの酒を買い込みキャンプしたものだ。大人への背伸びを、大らかに見守る大人たちの中で生きていた。スケッチ旅行のように一人３万円もかかるわけがなかった。その分スケッチ旅行で、イメージをたくさん自分の中に取り込んでほしい。

　お年ごろの年代では、いつだって男女関係に花が咲くものだが、いつか自分に合う人に巡り合うと思っていた。自分の都合のいいように相手を作り替える、なんて考えもしなかったが、そのようなアニメが今はあるらしい。あれはしてはいけない、これも危ない、と言って規制することの多い時代では、汗もかかないで自分勝手な妄想の実現を「夢」と勘違いするような人を育てるのか？汗水たらしてイメージを体得してほしい、と願う。

2014年7月24日　寺田潤史

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