「子供を育てる」

　子供に好きなことをやらせる、この方針が果たしてよいのかどうなのか？と、ふと立ち止まって考えることがある。様々なことを広く浅く体験しながら、学校でそこそこによい子で通い、塾に行き、進学して勤め人になる、というようなごくごく普通と現代に考えられているような人生もあるではないか？いや、うちの子たちも、そんなにそこから大きく外れた人生を歩んでいるわけではない、という見方もある。見る角度によって、その人生は大きく異なるのかもしれない。

　では、僕はどうであったか？自営業の親を持ち、よい子で学校に通っていたのは中学２年生までか？それでも、進学校に進み、高校生活はともかくとして、浪人して塾（代々木ゼミナール）に通い、私立大学経営学部に入ったのだから、ごくごく普通の学生だったと言えなくもない。中学３年からの音楽がエスカレートし、就職をしないでアルバイトをしながら音楽を続け、やがて無農薬野菜で生計を立てる、という選択してきたことが、子供に好きなことをやらせることの根底にあるのだろう。だいたい、無農薬野菜でなくても農業生産はできるわけだし、９９パーセントの人が農薬や化学肥料を使っているわけだから、無農薬野菜にこだわる必要はない、と考えていたら、このような子供の育て方はしていなかったのかもしれない。

　自分を振り返って理由を探してみても、やっぱり僕にはこのような子供の育て方しかできないのだろう。もちろん、僕一人で子供を育てているわけではないから、連れ合いの意見を聞きながらの部分も重要であるわけだ。子供に好きなことをやらせる、という育て方は、放任とは全く違う。子供との徹底的な対話が必要な点において、決定的に違う。ただ単に好きなことではなくて、本当に君が好きなこと、であるかを継続的に確認するようなやり方だ。

　話をそらす。今聴いているアルバム。Tom Petty & HeartbreakersのHYPNOTIC EYEである。僕は今、このアルバムによって助けられている。未来を向く、という意味で助けられている。真剣に生きるという意味で助けられている。アルバムの歌詞的な内容は全く確認していない。だから、歌詞内容ではなくて音に助けられているのである。音楽という道を歩んできたからこそ助けられているわけで、初心に帰るというような気持ちと未来が重なっているような気持ちだ。

　子供に好きなことをやらせる、という意味は、実はここにある。自分と対峙して対峙して、それでも何とか前に進む、その繰り返しが、いつか自分が大変な時に、どこかで光明を一筋見つけることにつながるかもしれない。好きなことをやり続ける、ということは、前を向くということである。ところが、前を向きたいのに前を向けない時というものは必ずやってくる。

　世間では、凄惨な事件が日々起きている。事件記事を読むだけで苦しくなるようなものも少なくない。事件を起こす当事者が、自分のやっていることを確認しようとしているだろうか？好きなことをやり続けるということの中には、客観的に自分を見る、ということが含まれる。これでいいのか？という自問自答が日夜続くからである。それがなければ、何でもありの世界になってしまう。それは、自分の好きなことを継続できる世界ではない。本当に自分のやりたいことは、継続してはじめて納得できる世界ではないだろうか？

2014年8月7日　寺田潤史

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