「子供を育てる　その２」

　これを書いている納屋で、長女がホルンを吹いている。練習のはじめにロングトーンを吹くのだが、これが耳にツーンと長く響く。この音の中で書けるのか？と思って、先週書いたものを読み返してみると、読んで集中していると音が気にならないことに気づく。人の脳は、集中したものだけを取り上げることができるように造られているらしい。とは言え、句読点ごとに、ホルンの音は脳にツーンと響いてくる。

　今朝は、長女の私立高校の学費（諸費）の引き落とし日である。よくぞここまで滞納なしで払い込んできたものだと思う。そして、この横で吹いているホルンは、本当に将来お金を産み、生活につながっていくのだろうか？と思う。お金のない家庭に育つ人間が、お金の出て行くばかりの楽器の練習に精を出す、この状態は何なのだろう？お金に余裕のある家庭は、子供が将来お金を得ることができるようにと、勉強をさせ良い大学に入れようとする。つまり、日頃からお金を稼ぐ準備をしているのである。

　お金を基準に考えたなら、お金のある人が更にお金を得るような仕組みが社会に浸透している。お金のない人は、借金をして、その返済にまた利子を多く払う。お金のない人は更にお金が少なくなるような社会の仕組みである。そしてまた、法律を作る側の人は、お金のない人にはお金を貸さないような仕組みをどんどん作り上げていく。つまるところ、政治家というものは、自分たちの有利なことしか考えない人たちである、と言ってしまいたくなる。

　次女は、この夏、旅館のアルバイトに行っている。お金を稼ぐことや社会体験のために行っている。お金を稼ぐことは嬉しいらしいが、その疲れを伴う仕事は、休息を自分に与えようとも思わせてくれるようだ。昨日、次女は休みになったアルバイトの時間を利用して、肝心の絵をほったらかしにして、ストレス発散のために小説を読んでいた。仕事をするということは、疲れを伴うということを経験できたのは良い経験だ。だが、まだ時間の貴重さを実感するには至っていない。そのまま高校を辞めて働きながら絵を書くのもありだよ、と伝えておいた。

　ここで筆を止めてみると、再びホルンの音が耳に入ってくる。早いフレーズのエチュードの練習をしているようだ。さすがに３年間みっちり練習してきただけあって、音に芯が出てきている。しかし、まだ音の語尾が未熟なことが多い。僕が指摘したところで、あまり聞く耳を持たないからいちいち言わないけれど…。同じようなことを尊敬する先生に言われたなら、素直に聞く。いつか、すべてを天の声と聞くことができるようになったら、その音楽を聴く耳も一段高いところに行くかもしれない。

　やはり、音は、お金を基準にはできていない。練習量を基準にできている。お金を基準に社会が出来ていると考える人たちに従順であれば、お金のことばかりを毎日考えて生きていくことになる。しかし、その人の経験が所作に顕れるとするならば、経験を信用することが心安い生き方であろう。子供を育てるには確かにお金がかかるが、子供がどれほどの経験(鍛錬)を積むかを基準に育てることが、安らかな育て方と言えるかもしれない。

2014年8月15日　寺田潤史

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