明らかに違うこの秋の気候は、ここ数年の蒸し暑さオンリーの九月と決別したかったかのようである。まるでおなかをすかした旅人にパンを差し出すような涼しい気候を用意しながら、洪水の川を渡れと言って脅されているような感じである。辻褄の合わない脈絡は、数年に一度の予想できない気象予報の事態が、繰り返し発表されていることに符合する。

　先週、僕の野菜を２４年に渡って毎週買ってくれている友の家に配達に行った時、長女のホルンの話題になり、血だな、と言われた。まだ、海のものとも山のものとも分からない状態の長女が、ホルンの練習に明け暮れた結果、たまたま地元で行われるホルンフェスティバルに参加できることを評価してくれたのであろう。血？確かに彼の言う通り、僕はいまだにアウトローの人生を送っているようなものであるけれど、長女はアウトローなのかな？という思いが横切る。いや、血である、ことはそのようなことではないのだけれど、正直に言えば、僕が長女のような高校生の年代にホルンに明け暮れるような生活をしていたならば、まったく違う性格の僕ができていたと思う。

　高校一年の時、サッカー部を共に辞めて、僕は彼と今は亡き喫茶ガトーという店に行っては、覚えたての煙草を吸ったりしていた。今まで一番遊んだのが高校時代だと言えるくらい、好き勝手なことをしていたと思う。その年代に、長女は、ホルンの練習に明け暮れているのである。そして、僕は今、その長女に向かって、いい気にならないように言葉をかけている。「おー、だいぶいい音になってきたなー、でもその部分は…」などと苦言を混ぜながら…。親として見守るのは、見守るだけではないのである。いまだに自分の人生と闘っている自分自身と対峙するかのように、言葉として長女に日々伝えるのだ。

　多分、彼の言う「血」とは、僕がただ見守るだけということはできない人だ、ということかもしれない。血というものがどういうものかは知らないが、僕の親父は、ただ見守るだけの人だった。親父は、次男のお前に口出しはさせない、という態度はとるくせに、僕の音楽に対しては一言も発しなかった人だ。帰農したあとに、「仕事して怪我するなよ。指を怪我されちゃかなわない」というような言葉で、僕のギターを尊重するようなことを言っていたくらいかなぁ？

　人には、それぞれやり方がある。すべての家庭にやり方があると言っていいと思う。そして、少子化の時代だから兄弟姉妹が少ない家庭が多いかもしれないが、少なくとも一番上の子供と親の関係を、下の子供たちはよーく見ていることは確かだ。あれが許されるなら、これもありかも？とかね。そういう意味でも、僕が長女に向かうやり方は、一つの範を見せなければいけない。

　僕の宝物は、友達である。これは、ほとんど役には立たない。ところが、大いに支えとなる。自分を作るものは自分である。そして、自分一人では何もできない。この脈絡のない一見して矛盾するものが、人生を形作っている。そのようなことを科学で解明しようとするのも人間らしいことかもしれないが、ブラックボックスはそのまま少し存在するほうがいい。と、僕の犯した様々な愚行が教えてくれるのだ。天候もまた受け入れるだけだ。

2014年9月11日　寺田潤史

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