次女の油絵の自画像は、いろいろな意味で考えさせられた要因を作った。実は、高校生の工芸美術展の会場で、数百点もある中から娘の絵を探すのに時間がかかった。見る順序が逆から入ったこともあって、最後の会場が実は最初にパンフレットをいただく場所だった。そこに次女の絵を見つけた。その時の、えっ？これ？というあの印象の質感だけはまだ覚えている。そう、自分自身の驚いたような質感、それが次女の絵の真実だと、今はようやく理解できた。

　絵というものは不思議なものだ。絵を一目見た瞬間、自分自身に対して、説明を求められているような、言葉にしなければいけないような印象を抱かせる。それが取り違えることの第一歩になりうる。次女の絵もそうだった。特に、自分の娘の絵となると、最初に受けた質感を放棄して、技術に目が行ってしまう。雑なタッチの場所を見つけては気にしてしまうのだ。そして、頭の中で先入観を作っておいて、言葉で理解しようとする。

　小説などは逆に、言葉を読んで情景を理解しようとする。情景を浮かべながら、自分の過去に見た風景になぞらえたりして、物語を共に歩もうとする、と言ったらいいか。絵には、時折、一種の畏れのような感覚を瞬時に植え付けられる時がある。それは、狂気につながるものだろうか？とも考えるが、狂気というものを本当に僕は理解しているのだろうか？今回、次女の絵を十数名の方に写真で観ていただいたが、その感想の一つに、微小だけれど狂気めいた感情さえ感じられる、という鋭い指摘をいただいている。それを読んだ時に頭に浮かんだのは、ああ本来僕はそのような見方で絵などに接していたはずなのに、まったくそれができていない。それは、自分の娘の作品であるから致し方ないことなのかもしれない。

　と、僕は娘の絵を縁にして、自分への問いかけを頂いたことに驚いている。自分の音楽もどこか取り違えて迷走していたんじゃないか？そうして振り返り、自分の今の作品をあらためて聴き直してみる。ああ、おかしな方向へは行っていないけれど、仕上げ方に問題はあったなぁ、と大きな発見をして喜んでいるところだ。何ものかの先入観によって、違う理解へと発展してしまうと、負のエネルギーは知らず知らずのうちに自走するようだ。正のエネルギーを働かすことで、プラスマイナスセロのニュートラルな見方でいられるようになるのかもしれない。

　折しも、長女の友達のお母さんが、突然亡くなられた。その友達のお父さんはすでに他界しておられるようで、とても大きな損失と衝撃である。そのようなことに接すると、やはり人はやれるときにやれることをやるべきである、という思いを強くする。次女が油絵をやり続けたければ、そうするがよい。自分のことは自分で切り開いていくほかはない。様々なサポートは、できる人がするのがよい。世の中には、負のエネルギーが満ち満ちている。放っておけば、負の連鎖に甘んじることになる。人が生まれてきた理由でもある正のエネルギーは必然であり、それが負のエネルギーと対峙していく源になるのだろう。負けてはいけないし、勘違いしたら立ち返ることも必要だ。これは次女からのプレゼントかもしれないね。

2014年11月13日　寺田潤史

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