朝からの雨は、昼前に雷を伴った。午後、雨が止んで、収穫、出荷が終わるころには、又雨が降り出した。関東、甲信越では雪が降っているようだ。よかった、日曜日に雪が降らなくて、と先の日曜日の家族日帰り旅行を思い出す。長女の高校生活最後のコンクールにかこつけた、家族旅行である。ここ数年は、泊りがけの旅行に行く余裕がなく、この三年間のコンクールが、二番目以下の子供たちの楽しみになっていたのだ。

　コンクールがメインの旅行であるから、長女の受付、出演時間、結果発表の表彰式に合わせて、みんなの行動が決まる。今年は、運よく午前中の出番である。九時に受付を済ませ、長女を会場に残して、僕たちは徒歩で有名ケーキ屋さんに出向く。三女が録画したテレビ番組でやっていたお店だ。パテシエール志望の三女が何度も何度もその番組を見返していて、その人気たるや行列のできるくらいらしい。１０時開店で、９時半にはお店に着く。幸いなことにまだ数名の行列だ。外から職人の仕事ぶりを垣間見たり、お店構えを観察して、待つこと３０分。ぞろぞろとお店に入って、何種類ものケーキや焼き菓子を購入。もうそれだけで、三女は大満足の様子だ。

　次女は、そのあと、画材専門店に画材を買い出しに出向く。三女もその画材専門店の近くに製菓道具専門店をネット検索で見つけて同行。残った僕たちは昼食を調達し、コンクール会場に戻る。長女の演奏と、十二月にクラシックコンクールで負けた一学年下の男の子の演奏を聴く。「多分、一位だろう」と楽観的に考えて、会場を後にする。昼食とケーキを車の中で全員で食す。でも、これは不正解だ。ケーキは落ち着いて少しずつ食べたほうがいい。

　長女はコンクール会場に戻り、三女と連れ合いの二人はまた買い物に出かける。僕は、次女と四女と長男を連れて、多摩動物園に行った。坂道の多い動物園だった。駆け足で園の半分を回った動物園よりも、多摩地区の住宅の多さに驚いた。昔はこんなに多くなかったと思うのだが…。四時過ぎに皆と落ち合って、コンクール会場に戻る。いよいよ結果発表だ。時の始発電車に乗って、６時半から学校で練習をすることを長女は始めた。学校は冷暖房も整った良い環境であるので、練習にも最適だ。

　結果は、二位だった。残念そうな制服姿の長女の表情。一位の人は、スーツ姿の長い髪の女性で、やけに堂々としていた。後で知ったけれど、一人だけ大学生が出場していたのだった。二〇歳以下のコンクールだが、みんな高校生だと思い込んでいた。そう言えば、去年も芸大浪人のような人が一位だった。一つ下の彼は三位だった。でも、よく考えてみると、二位であるほうが、モチベーションが下がらなくてよい。大学に入学することが目的ではなく、高校生活を経てようやく演奏家への厳しい道の入り口に立ったということだから。

　帰りにラーメン屋を見つけて入ると、とてもおいしい店だった。この頃は外食すらほとんどしない。久しぶりの外食でがっかりすることなく、おいしさに皆が納得した。一年に一度だけのETCカード利用など、日常と違う一日は、長女の卒業とともに終わる。下の子供たちが、また新たに何ものかをもたらすのかどうなのか、未来のことはわからない。長女の残した足跡は、確実に下の子供たちの雛型になっている。あんなにトロそうでのんびりした長女が雛型になることができるのだから、人間社会は深淵かつ不思議な世界である。

2015年1月15日　寺田潤史

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