相変わらずの寒い日々で、畑の野菜の成長は停滞している。霜がひどく当たる場所では、葉も傷んでいる。人も野菜も、冬という季節を堪え忍んでいるのだ。それでも、風のない日、陽だまりで野菜を収穫、調整することは、何とも気持ちのいい時間であると感じる。そういったものすべてが、季節を堪能するということになるのだろう。有機農業のいいところ、それは季節をそのまま表現できることにあるのかもしれないし、作物との対話にあるのかもしれない。

　有機農業とは、カウンターカルチャーのようでいて、そうでないものである。化学肥料や農薬を使わないというカウンターから出発しているのかもしれないが、それはあくまで出発点で、有機農業者は「人が食べる素材」というところを掘り下げようとする。最初は誰もが、化学肥料や農薬を使った野菜に対して、どこまで無農薬で近づけるかを学ぼうとするかもしれない。しかし、それは違うことにやがて気付く。有機肥料だって多く施し過ぎればよくないし、肥大しすぎた野菜に透明感のある味を求めること自体が無理な話だと気付く。野菜の声を聞くようになるのだ。

　野菜を育てることは、人間の子供を育てることにも似ている。あらかじめ、親の考えるような人間に育てようとしてみれば、無理があることに気付くだろう。市場の求める扱いやすい野菜に仕上げることと、人間社会に順応できる人間を育て上げることとは、どこか似ている。本来、人間は意志を持って生まれてきている。それを親や大人の思うところに誘導するのは、教育という言葉にすり替えているだけで、始まりが違っているのだ。子供の意思を確認しながら育てる、それが親の役目であり、大人の役目なのだ。

　僕がよく自分の子供のことを書くのは、野菜も同じであるからだ。野菜は皆、豊満でなければいけないのか？子供は皆同じ方向を向かなければいけないのか？子供は一人一人違う。何から何まで違うのだ。野菜も同じである。野菜には、草や虫や鳥獣、雨や風、照りつける太陽、雪や霜、しいては台風、という環境がある。それらの厳しい環境の中で生き抜く野菜は、人間の血となる。軟弱な環境で大きく育ったものは、それなりである。子供が甘やかされて育って、親が言いなりになってちやほやすれば、それもそれなりだろう。かと言って厳しければいいとは思わない。子供の意思に添いながら、自分たちの環境の中で子供に選択をさせていかなければ、と思う。

　野菜では、同じような条件に育っているようで、ひとつだけとびぬけて大きく育つものもある。それはそれでいい。小さくてもいい。そこに生える草の種類や虫の種類も違う。生物は多様なほうがいい。単一作物で慣行農業のように大きくて扱いやすいものがよければ、それもいい。人間側の意志の問題である。僕はただ単に、透明感のある味のする野菜に育ってほしいと願っているだけだ。このように泰然自若として言い放つとしても、僕は右往左往しながらオロオロとそこに帰結するまでのたうち回って、様々なことを考える。

　子供のことも、いつだって雑用係りみたいに走り回され、ぶつぶつと「俺の時間はどこだよ？」とひそかに悲鳴をあげながら、時間を費やしている。でも、そこにその子なりの意志を感じると、嬉々としてサポートすることができるのは不思議なものだ。

2015年1月22日　寺田潤史

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