今週の月曜日と火曜日、寒さはピークを迎えた。風の冷たさが半端ではなく、身を切られそうだ。月曜日の夜、野菜の仕分け作業を中断して家の中に入り、ほんの１０分足らず経って表に出ると、雪がうっすらと積もっている。雪の珍しいこの地方であるから、子供たちも全員表に出てくる。すぐに雪は消えたが、次の朝も日陰にはまだ雪があった。

　あの寒さの三日間のあと、今日の昼間は暖かかった。昨日今日と朝の霜が強く降りたのは風のない証拠で、気温１２度よりも暖かく感じたのは風がなかったせいもある。夜になっても、石油ストーブに火を入れる気にならないほどだった。納屋の薪ストーブも、午後には火を入れなかった。野菜を洗う手も楽である。しかし、週末はまた寒くなるという予報が出ている。今年は三寒四温で春に向かってくれるだろうか？

　納屋の薪ストーブと、風呂の薪、この二つのために薪集めは重要な仕事だ。連れ合いは、笹や雑木をせっせと集めてくる。僕は、枯れた松の大木の枝を梯子に上って切り落とし、それを解体する作業をする。枝と言ったってかなり太い。それを長さ３０センチメートルほどに切ること、のこぎりではかなり骨の折れる作業だ。切ってしまえばまき割りは意外と楽なのだけれど、枝別れした部分など、節のある場所はまき割りもできないほどである。それらを執念で小分けしていくのだが、何とも時間のかかる作業で、一円の利益も出ない作業だ。しかし、この寒さの中だと、体を温めるにはもってこいの作業である。収穫の合間に、のこぎりを持つのは体を温めるために他ならない。

　寒さのピークを越え、今日のような暖かさを感じると、春に向かい始めたことを実感する。際限のない薪集めに目途がつくような、春の予感が明確になる。いつ来るとはわからない春から、確実に春に向かっている、という状態への変化が農作業への推進力となる。いったい、僕達にとってお天気を気にすることは何の意味を持つのだろう？現代において、季節感の希薄は都市で顕著だ。密閉性の高い家に住めば住むほどに、季節感から離脱する。その真逆空間を僕たちは体現している。お天気を気にすることは、四季の一員となることだ。しかし、気にすると言っても、お天気に神経質になるわけではないから、心は病まない。何千年の昔から、人はお天気を気にしてきたのだ。それはつまり、人間である証なのかもしれない。だからこそ、春に向かいはじめることに色めき立つし、それが生きるということなのだろう。

　野菜は、その季節感を体現した食材である。野菜は単に食材ではない。厳しい厳しい冬を超え、少しずつの春の予感を蓄え、花芽をつけて伸ばし、やがて種となる、その成長過程を食材とする。当たり前のことかもしれないが、人はすぐにそれを忘れるものだ。有機物を分解する微生物たちも、温度が低ければ動きは活発ではないだろう。だから、野菜も肥料成分を吸収しにくくなる。それもまた、季節の一員としての営みだ。その結果として、野菜の味がある。都会に住んでいようとも、季節の営みを表現した野菜をたべることは、人間本来のなにものかを取り戻すことになるかもしれない。春に向かうのは、都会も田舎も同じである。

2015年2月12日　寺田潤史

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