国公立大学は、今まさに二次試験の真っ最中。公立高校受験の中学３年生も、もうすぐ入学試験だ。彼ら受験生の春は、合格発表後に訪れる。一方、私立高校、私立大学、あるいは推薦入学、それらの多くは合格発表が出ている。うちの長女もその一人だが、彼らの周囲にはゆるい空気が漂っている。まるで、今週始めの突然の気温２０度のように、一足飛びに春が来たような空気だ。

　三女のもとには、中学から進路希望調査の紙が届いた。中学を卒業したら、高校、大学へと進学したいか、高校や専門学校へ行って就職というコースをたどるか、中卒で就職するか、というような選択である。三女と話してみる。今までの流れは、農業高校の食品科へ進学して、洋菓子店に就職して技術を学ぶ、というスタイルだ。菓子作りのことをよくは知らない僕が、三女の日々の菓子作り現場を観察していると、どうも三女は菓子作りに関しては粘り強い、ということがわかる。簡単に言えば、同じような作業を長時間続けてもいやにならない、ということ。それは、菓子作りが好きであるからこそできる作業だ。

　三女は、まだ中学二年生であるし、部活も卓球をやっているから、時間が無制限にあるわけではない。その中で、３日に２日は菓子（ケーキ）を作っている。そうでなければ、菓子作りの作業風景の動画を見ている。僕が横目で見ると、ほとんどの場面で、ボールの中の菓子材料をかき回している風景が映っている。実際の現場でそれらを見ることができないので、動画から情報を得ているというわけだ。それを、菓子作りの実際でやってみて確かめているのだろう。つまり、それらのことをやっていることが、幸せを感じられる瞬間なのだと思う。

　勉強のほうは中の上程度で、大学なんて行きたくない、と言う。それなら、いっそ中卒で洋菓子店に丁稚奉公でいいと思う。本人もそんなことができるなら、それがいい、とも言う。ただ、まだ独り暮らしをする勇気はないようで、家から通いたいという。そういう熱意を買ってくれるような洋菓子店があれば、の話だが…。しかし、周囲はそれを簡単には許さないだろう。高校へ行かないなんて、という風潮は簡単には崩れない。三女の選択が、一択になってしまうわけだし。

　長女が、音楽科のある高校へ進学する、と決めた時、周囲のほとんどが反対をした。音大を出た吹奏楽部の顧問の先生ですら難色を示した。ただ、今は恩師となった高校のホルン教諭が「来てほしい」と言ってくれたし、結果を残した今は、周囲の誰もが期待をしてくれる。世の中とは、そういうものである。サッカーの香川選手じゃないけれど、結果を残してなんぼ、の世界だ。それでも、来いといってくれるような専門家がいた、そのことは親である僕にも勇気を与えた。

　三女がどこまで強い熱意を示すか、それはこの先の１年を見て僕たち夫婦が三女とともに判断するだろう。僕たちの畑の野菜と同じように、今ある環境の中で何ができて何ができないか、何をしたいか、それらを徹底的に日々の糧とするのだ。昨夜も僕は、テレビチャンネルを変えた。バラエティ番組を見ていて、専門性は追及できないし、その時間の貴重さは、子供にとって大人の比ではない。いや、テレビ番組だって深い視点を持って作られているならば良いものもあるが、大人の役割は子供の道筋を日々、春へ促すことだろう。

2015年2月26日　寺田潤史

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