今週は、エルビスコステロのKing of Americaを聴いている。１９８６年のアルバムだから、僕が２６歳の時の音楽である。僕がこの年頃には、ジャズを本格的に聴着始めた頃で、いわゆる流行の音楽から離れ、異質なものを好んで聴いていたと思う。余談だが、３０代４０代になって、同級生などにJ-Popは聴かないのかと言われた時に、いいと思わないんだよね、と本音を言って不思議がられた記憶がある。今では、邦楽、洋楽問わず、この頃の曲でいいと思うものはあまりない。いや、流行の中で、という意味だが…。よほどクラシックのほうがおもしろい、と思う時さえある。では、回顧主義か？いやいやそうでもないのだが、良いと思うものがあの時代にあれば、回顧主義者と言われてもいいかもしれない。

　転じて、有機農業の世界では、種、品種の問題をあれこれと、自家採種がいいとか、F1（一代交配種）は良くないとか、論じる向きももあると思うが、僕は我関せずである。自家採種することもあるけれど、それはやはり明確な意図がある時だけだ。たとえば、この風土と貯蔵性に合わせて、サツマイモの選抜育成していきたい、と思う時など。しかし、淡白なもので、途絶えたとしてもまた育成し直せばいい、と思うくらいの気安さである。だから、品種にはこだわるが、種にはあまりこだわらない。種苗会社は、しっかり仕事をしていると頭が下がるし、僕にはそこのところを特化する気持ちはないのである。

　音楽とか、野菜の品種とか、僕にとっては重要なのだが、こだわりがある分だけ、まったくどうでもいい、という感覚さえある。野菜で言えば、これだけ気候の変動が激しくなっているし、品種の力も大いに借りたいところだが、気候の圧倒的勝利！という次元の違いを感じるここ数年でもある。かと言って、化学肥料や農薬を使う気は毛頭ないし、有機野菜の美味さは決定的でもあるので、スタイルはここ２０年ほとんど変わらない。

　昨日は、２３歳の男の子が畑を見学に来た。水耕栽培のビニールハウスを８つ経営しているところで、仕事をしているという。でも、本来自分のやりたいのは土耕栽培である、と。彼を見ると、指が細い。ほう、水耕栽培は、指が太くならんのかいな？うちで働けば、すぐに立派な指になるだろうな。今どきの男の子である。聞けば、彼の親は僕よりもひと回り若いらしい。高校を出て介護の仕事に就き、腰を痛めて、子供の頃からの夢だった農業の仕事に転職した。彼の当面の夢は、自分の育てた野菜が、お店に並ぶことなのだそう。僕は答えた。「そんなものはすぐに実現できるよ。ただ、それを１０年２０年続けていくのは簡単なことじゃないね」と。

　彼に会って話をして、僕が一番強く感じたこと。学歴なんて関係なく、仕事をしてみて無理だと感じることを重ね、自分はこっちのほうへ行きたい、という意思を発見できている。おっとりとしたマイペースの雰囲気と、現代っ子らしい風貌、それらが嘘っぽくないように感じられるのだ。ひ弱でもいい、自分の見たこと感じたことを信じて行動する、それでいいと思う。流行りの音楽やファッションを、良いと思い込まされるよりも、自分の面白いと本当に思えることと対峙したらいい。これ、何か違うな、と感じたら、信じることだ。

2015年3月12日　寺田潤史

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