毎年、新しい年齢になって迎える新しい季節は、誰にとっても初体験の季節である。その年齢の数だけ季節を経験してきてはいても、同じ年は一つもないのだから、その年齢のその季節と向き合うこと、それはもう初心者のようなものである。それを、何度も何度も季節を重ねたような気になるところに、人間の錯覚が潜んでいるようにも思えてくる。

　台風の心配をした５月と、平年並みに迎えた梅雨の間には、とても穏やかな気候があった。穏やかな気候は、仕事を順調にこなす時間を与えてくれ、まるで穏やかな幸せな気候など存在しなかったかのように、その時間を忙殺した。穏やかな気候が人を仕事に駆り立て、結果的に穏やかな気候を感じることができないという矛盾だ。人間の幸せとは、大変なものと大変なものの間に生じるわずかな時間にこそ凝縮されている、と感じるが、いつも後の祭りなのだ。

　今日の昼間も、連れ合いは、畑で収穫して汗ばんで戻ってきて、納屋の前でニラの調整をしている時に、良い風が心地よく吹いてきたことに、一瞬の気持ちよさを感じたらしい。そして、その心地よさはまた、畑に戻ることで消える。心地よさが永遠に続くことはないからこそ、心地よさを風の中に感じることができるのだろう。そうして、目に見えぬ風に季節を感じ、季節の中で綱渡りのように生きていくことを結果的に噛みしめるのである。「もののあはれ」とはよく言ったもので、歩き続ける人の、立ち止まった一瞬をとらえ、また歩き続けることに意味を与え、エネルギーを与えるものでもある。

　人が生きていく間には、良い時期と良くない時期がある。人はことさらに、良い時期を強調し、良くない時期を強調する。その強調することにのみ生きる意味がある、とする報道テレビ番組やワイドショーすら存在する。また、良い時期に永遠性を求めて、高価できらびやかなものを所有しようとするのは、今も昔も変わらない。錆びついたものなどは、一刻も早く視界から消え去るように断捨離しようともする。「清濁」合わせることを拒否して、「濁」を抹殺したくなるのだ。

　先日、四女は面白いことを言った。車でこの田舎町を走っていて、そのあたり一帯を指さして、「このへんはゴージャスじゃないよね」と言った。ゴージャスという意味をはき違えていると思ったが、四女には四女の思いがあるのだろう。四女の言う意味は、街並みを歩いていると、草が生えていてきれいでないし、景観が洗練されていない、というようなことである。僕が子供の頃には感じなかった、情報にあふれた子供の感覚だと思う。

　僕は常々思う。草は生えているほうが美しいか？刈り込んであるほうが美しいか？と。自然な状態と人工的な状態とで、その人なりの価値観が表されるのだ。一方、畑を歩くには、通路の草を刈り込んであったほうが歩きやすい。草の穂が垂れているような場所は歩きにくく、それは人の動作上の物理的な価値観だ。また、近所で除草剤をやたらとまく人がいる。除草剤をまいたあとの、あの黄色くなった草を見て、きっと気持ちよいと思うのだろうけれど、僕は気持ち悪くて仕方がない。僕は四女に言った。「ゴージャスが好きなら、そうなるように人に期待しても仕方がないから、自分がコージャスになるようにしてごらん」と。

2015年6月11日　寺田潤史

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