アップルミュージックがはじまって、やたらと音楽を流していると、連れ合いは不思議に思ったらしい。「定額制の音楽配信をアップルが始めて、三か月は無料であらゆる音楽を聴くことができるんだよ」と答える。詳しいことはネットで調べれば出てくるが、自分で体験してみなければよくわからない世界でもある。音楽を好きでない人には、どうでもいい世界かもしれない。家族共有割引のようなものもあるので、東京にいる長女も一緒に利用できるという利点もある。

　今、ローリングストーンズのSticky Fingers Liveを聴きながら、これを書いている。１９７１年のアルバムを今年のライブで再現したもので、アップルミュージックに合わせてリリースされたらしい。４０年以上を経て再現される音は、いささか明るく感じられる。当時、「You Gotta Move」なんて渋いブルースをローリングストーンズがカバーしたのは、やんちゃなイギリスの小僧たちがブルース音楽に虜になった、その結果である。１９７１年の退廃的な雰囲気も、現在のライブでは小僧たちがおじいさんになって、観客の大ノリの中で明るく演奏している雰囲気だ。

　ローリングストーンズのことを書こうとしたのではない。ストーンズの曲が、この部屋の中で流れているのが不思議な感じがしたのだ。この頃の、何でもかんでもイヤフォンで音楽を聴く風潮に対して、部屋に音が響き渡るのは、何ともストーンズの音楽に合っている。つまり、響きなのだ。演奏自体がジャストのタイミングではないからこそ、響きを感じられるのかもしれない。

　娘がクラシック音楽をやっていて、それをあーだこーだと励ましながら口をはさむが、ブルースが流れたならば「やっぱりこれだな」と心底思う。僕は、日本の音楽はほとんど聴かない。この頃の日本の音楽は、日本の音楽だけを聴いて育った人が作っていることも少なくないらしいけれど、僕には信じがたいことで、滑稽にさえ思う。日本のサッカーだけを見て育って、ほかの国に勝とうとしているようなものか？やんちゃなローリングストーンズだって、アメリカのブルースをお手本にしたのである。

　音楽はともかくとして、僕たちの育てる野菜は、日本の古い農家をお手本にしている。昭和３０年４０年の頃の記述を図書館でたくさん読んだものだ。ほかの国の人に勝とうとしていないし、自然界からの直接の教えも必要だ。露地野菜は風土の中でしか生きられないわけで、海の向こうのやり方をまねる必要もないと思ったのだった。先人のやり方を学ぶことで、文化の継承にもつながる。ストーンズがアメリカの黒人の音楽を継承し、変化させ、現代につながっているように。

　若い人が、音楽を際限なく聴くことができる環境を、アップルは作ってくれたことになる。僕の若い頃は、ＬＰレコードやＣＤを買って、少しでも多くのの音楽を聴きたいと思ったが、それにはお金がたくさん必要になる。サッカーボールがあればサッカーができるように、わずかなお金で膨大な音楽を聴くことができることは、いったい何をもたらすのだろう？人はパンのみで生きるのではないから、自分の気持ちに素直になれるような側面を傍らにおいておく必要がある。そして、音楽などの文化に深く関わることが、人の気持ちや生活に思いを馳せるヒダの役割を持つことも、人が生きていく中では重要な要素だと思うのだ。

2015年7月2日　寺田潤史

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