長女が「ホルンで音楽高校へ行きたい」と言い出したのは、たいして勉強をする気もなくて、ホルンなら頑張れそうだ、と単純に思ったからだと記憶している。そこからの道のりは大変なものであったことは確かだが、ほとんど勉強とは無縁であったように思う。しかし、大学に行って一人で生活すれば、必然的にいろいろなことを考えるようになるだろう。

　ここで大事なことは、とっかかりの動機ではなく、これなら頑張ることができると感じた時から始まる本気度と持続性、そして熱意からくる深い探求心である。さらに言えば、そこから派生していく多様な見方へのこうべの垂れ方であろう。

　次女は、姉妹の中で一番勉強するタイプである。その勉強は、学校の勉強であるが、先生の言葉からの影響も強く、社会への関心もある。しかし、その勉強タイプとは裏腹に、技術の積み重ねと感性の要求される油絵の道を志している。本を読むことも好きであり、小学生の頃は小説家になりたいと思っていたくらいだ。次女もピアノを習っていたが、そのピアノは実に広く浅くという印象で、がっかりしたものだ。油絵で広く浅くではお話にならないだろうから、長女と同じく一念発起の本気度を発揮し始めたかどうか？

　長女次女を例にとったが、人の生き方というものの尺度には様々な見方があって、僕の子供たちの尺度は、本気度の持続性とそこから派生していく文化度がどの場所で発揮できるか？という観察でできている。一般的な志向とはやや違うから、ちょっとおかしな方向を向いているようにも見えるだろう。一つ言えるのは、勉強はあとからでもできる、ということである。その視点は、即ち１０代でやるべきことは他にある、という視点を生む。例えば楽器の鍛錬であれば絶対的に２０代からでは遅いし、サッカーであれば１０代前半がリミットかもしれない。

　ちょっと脱線するが、僕が本をよく読んだのは二十代三十代の頃であった。十代はほとんど読んでいないに等しい。本には人間の観察力と洞察力がふんだんに散りばめられていると思うのだが、それらを読んで他人の考えを自分の中に取り込むには、それなりの経験があってその流れの中で知識欲が進んでいくのであろう。

　本を読む年齢が人さまざまであり、何を読むかも人それぞれだ。そのことは学校というシステムの外に存在するものだと考える。小学校や中学で学ぶ、例えば漢字を覚えるということは最低限のことで、１５歳以降は必要な時に漢字を自分なりに覚えていく。僕は進学校へ進んだが、中学でよくできた数学は高校では赤点に変わった。まったく勉強しない国語だけは良い成績だったのだが（いやどの科目も勉強した覚えがない）、今考えてみると、自作曲の詩を四六時中に考えていた、という環境があったからではないか？と思う。学校の勉強の足しにもならないことでも、言葉を考えるという行為は何らかのものを生み出していたのかもしれない。

　人は、自分なりの時節で、自分にあったことを見つけて思いを深くしていくと、自然と勉強したくなる、そういうものではないだろうか？筋肉運動と意志の行動的持続は、その後の知識欲にどのように影響を与えるのか、興味深いところでもある。

2016年2月25日　寺田潤史

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